前節では、完全無作為化2要因デザインで(全体的)交互作用が検出された 時の、部分的交互作用の幾つかの検定方式について述べた。しかし、そこでは 主効果と(全体的)交互作用のいずれを先に検定するかの問題は議論しなかった。 実は、統計学の多くの入門テキストでは、2因子以上を組み込んだ実験計画で 交互作用が考えられる時、主効果の検定と交互作用の検定のどちらを優先すべき か書かれていない。また、世界的統計パッケージプログラムの SAS や SPSS でも、 主効果が先に出力されている。
しかし、一般に主要因子が2つ以上のデザインでは、実験計画立案時からの 分析の動機やつぎの Scheff\'e の定理を考えると、多くの場合、交互作用から 先に検討するのが正しいやり方ではなかろうか。おもしろいことに、MANOVA の 場合には、内外の幾つかのテキストや論文が、2要因以上の場合交互作用の検定 から始める必要があると指摘している (Morrison, 1967; Timm, 1980)。一方、 ANOVA に場合にはこの問題に関しては内外のテキストにも、明確な結論を下して いるものは、筆者の知る限り見あたらない。したがって、現時点ではこの問題に 関する結論は保留しておいたほうが、無難かもしれない。
つぎに、この問題に関連して、交互作用がある場合の主効果に ついて Scheff\'e (1959) は、たとえそれが存在したとしても、あくまでも他方 の因子の水準を平均すれば、との制約付の効果である、と述べている。 すなわち、交互作用がある場合の主効果の検定は、この意味で消極的な意味合い しか持たせられないであろう。ここで、交互作用のが存在する場合の主効果の検定 の是非については、例えば広津 (1981, p.78) に引用されている重要な Scheff\'e の 定理がある。Scheff\'e (1959, p.93) によれば、
定理 \hspace{5mm} もし交互作用 $\gamma_{ij}$ がある重み 系 $\left\{v_i\right\}$ 及び $\left\{w_j\right\}$ に対してすべてゼロ であれば、それら(の交互作用)は如何なる重み系でもすべてゼロである。その 場合、主効果 $\left\{\alpha_i\right\}$ または $\left\{\beta_j\right\}$ は 重み系 $\left\{v_i\right\}$ 及び $\left\{w_j\right\}$ に依存しないし、 因子A 及びBの水準の平均についての対比に対しても同様なことが成り立つ。
ここで、因子A 及びBの水準に対する重み系 $\left\{v_i\right\}$ 及 び $\left\{w_j\right\}$ のそれぞれの値とは、それぞれの因子の、設定された それぞれの水準が、それが抽出された母集団を代表している割合と考えてよい。
上の定理は、裏返すと、
上のような重みに意味があると考えられる場合には、たとえ交互作用があると の結果が得られたとしても、重みを変えてやると場合によっては交互作用にせよ 主効果にせよ、ないという結果にもなり得る、ということを意味している。すな わち、交互作用がある場合には、上の定理からも、主効果 の検定に一意的な意味を持たせることは難しい、 |