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1.2 節で述べたように、一般に反復測度デザインは複数の水準もしくは処理を同一の 被験者が繰り返すデザインであるが、RB-I デザインの場合、Table 1.12 の各列の ブロック因子の水準にそれぞれ1名の被験者を当てることにより、反復測度デザイン (正確には、1要因反復測度デザイン)となる。この場合、被験者数は $K$ 人と なる。
1要因反復測度デザインデータの場合、Table 1.13 の分散分析表における変動因 の効果の有無を見るための F-比は、主要因 A の $I$ 個の水準間の相関構造如何に よっては、歪むことを最初に指摘したのが Box (1954a, 1954b) である。Box は、 これら一連の研究で、F-比の歪みがどのような条件下で生起し、そのような場 合 F-比の歪み、したがって F-分布の自由度をどのように修正すればよいかについ ても示した。第2章で詳しく述べるように、そのためには F-比の分子、分母の自由度 にそれぞれ $\epsilon$ なる1より小さな標本から推定した値(Box の $\epsilon$ という)を掛ければよい。
しかし、F-比が歪む条件、裏返せば F-比が歪まない条件を公式として正確に定義 し Box の研究が再認識されるには、その後十数年を要することになった。第2章で 詳しく述べるように、それを行ったのは Rouanet and L\'epine (1970) と Huynh and Feldt (1970) であり、反復測度デザインで主効果のF-比が歪まないための必要 十分条件は{\gt 球形仮説} (sphericity assumption または circularity assumption) であることを示した。
ここで、球形仮説自身は Box のうえの研究以前に Mauchly (1940) が 多変量仮説の1つの検定として提案した球形検定(または等方性検定)(sphericity test) における帰無仮説として、古くから専門家の間では知られているが、分散分析 の文脈では少なくとも本邦においては未だ十分知られておらず、sphericity test という言葉の訳し方も定着しているとは言いがたい。例えば、SPSS は これを球状性検定と、竹内(監修)・高橋・大橋・芳賀 (1990) は球面性検定と 訳している。球形検定の訳は筆者による (千野、1993)。 球形検定は、分散分析の文脈では不幸なことに訳が本邦では定着していないばか りか、内外の一部の楽観的見解もあり、現状では無視される傾向がある (千野、 1993、1994、1995a、1995b)。しかし、千野 (1995a、1995b) にも指摘したように、 欧米では球形検定に関する多くの研究が既になされているし、一部の楽観的見解 が Box や Collier, et al (1967) の特殊な相関構造を用いたシミュレーションに 基づくものであり問題があることは明らかである。
ただし、残念なことに分散分析の文脈での球形検定の方法には、未だベストの方 法が何かについての決定的な結論が出ておらず、これまでに欧米で提案されて きた幾つかの方法を併用し、慎重な結論を出す必要があろう (千野、1995a、1995b)。 いずれにせよ、第1章では反復測度デザインデータの対処法についてはこれ以上 は触れないので、詳細については第2章を参照のこと。ただし、1.5.4 節ではいくつ かの SAS プログラムの中に反復測度デザインデータ用のものを示しておくことに する。
最後に、簡単な一要因反復測定デザインデータの例と、これにより計算できる要因 の水準間相関行列とその検定結果、及び水準間のデータに関する散布図を示し、反復 測定により、いろいろな水準間相関構造が出現することを例示することにする。 次の例は、平成20年度の前期授業の受講生18名によるミラーリエル錯視に関する 角度要因の効果の有無を反復測定デザインデータを収集することにより検討した例 である。
被験者は、斜線分の長さを30ミリ一定とする斜線分の角度を30度、45度、60度と変えた条件のすべてを、3条件の試行順序はランダムにし、各条件共系列位置効果もランダムにして4回、被験者調整法により測定させられた。つぎの3つの散布図は、これらの条件(順に ill1, ill2, ill3 なる条件名とした)間の3つの散布状態を示す:
プロット : ill3*ill2 凡例 : A = 1 obs, B = 2 obs, ... ill3 | | 35 + A | A | A | | A | 30 + A | | A | | | A 25 + | | | | A | 20 + A A | | A | | A | 15 + | | | A | | 10 + A | | A | A | | 5 + | A | | | | A 0 + | --+---------+---------+---------+---------+---------+---------+---------+-- 5 10 15 20 25 30 35 40 ill2 |
ちなみに、上の2条件間には 0.952 の相関があり、1パーセント以上の高い水準で統計的に有意である。
プロット : ill3*ill1 凡例 : A = 1 obs, B = 2 obs, ... ill3 | | 35 + A | A | A | | A | 30 + A | | A | | | A 25 + | | | | A | 20 + A A | | A | | A | 15 + | | | A | | 10 + A | | A | A | | 5 + | A | | | | A 0 + | --+-------------+-------------+-------------+-------------+-------------+-- 0 10 20 30 40 50 ill1 scatter diagrams among conditions 25 |
一方、上の2条件間には 0.870 の相関があり、1パーセント以上の高い水準で統計的に有意である。
プロット : ill2*ill1 凡例 : A = 1 obs, B = 2 obs, ... ill2 | | 40 + | | | A | A | 35 + | | | A A | | 30 + | A | A | | | A A 25 + | A | | | A A | 20 + | | | | A | 15 + A | | A | | | 10 + A | | | | A A | A 5 + | --+-------------+-------------+-------------+-------------+-------------+-- 0 10 20 30 40 50 ill1 |
最後に、上の2条件間には 0.863 の相関があり、1パーセント以上の高い水準で統計的に有意である。