平成16年度問題20への解答・解説
この頁は、平成18年6月14日に新たに開設しました。
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1) 正解 a
2) 解説
- a. は、実験における統制についての議論であるにもかかわらず、後述する
ように、実験的統制に関する重要な考え方が抜け落ちており、非常に
不適切である。
- b. は、実験の基本的な形式が、現象を規定すると考えられる多くの条件のうち、 他の条件をできる限り一定に保ち、少数の条件のみを組織的に操作し変化させ
て、それに伴う現象の変化を観察・測定することにある(例えば、大山、1973)
ので、その範囲では適切である。ただし、「実験」を離れて「因果関係」全般
を議論するときには、①先行原理:原因はその結果よりも先かあるいは同時
に生じる、②共変原理:真の原因は結果と規則的に予測しうるように共変する、
③時間的接近原理:原因と結果は時間的・空間的に接する、など(例えば、
丸野、2005) を検討する必要があり、科学哲学的問題としては、b. の定義は
不十分である。
- c. は、 実験において組織的に操作され、変化させられる条件を「実験操作」
(あるいは「実験変数」、experimental variable)、恒常的に保たれ統制される
条件を「剰余変数」 (extraneous variable) と呼ぶ ので、ほぼ正しい。なお、
実験変数は、実験者が操作し変化させるので「独立変数」(independent
variable) 、実験的操作による得られる現象や行動は、実験者 の操作する
独立変数により規定されるので、「従属変数」(dependent variable) と呼
ばれる(以上、大山、1973) 。
- d. は、相関関係があるとは、一方の変数の値が大きくなると他方の変数の
値も直線的(このことは、必ずしも比例・もしくは反比例関係を意味しない)
に変化することを意味するので、ほぼ正しい。ただし、変化という言葉は、
因果関係を連想させるので、d. は十分適切とはいえないであろう。
- e. は、その通りであり、適切である。
上記より、正解(最も適切でないもの)は a. である。
3) 実験的統制
大山(1973) によれば、実験的統制には広義の定義と狭義の定義がある。まず、
広義の定義では、それは実験変数(上記)の操作や規制 (independent-variable-
control) をいう。一方、狭義の定義では、それは剰余変数(上記)の統制
(extraneous-variable-control) をさす。
剰余変数の統制のための方法としては、実験に先立つ剰余変数の除去、剰余
変数の恒常化、剰余変数の効果の均衡化、剰余変数の効果の相殺、などが知られて
いる。詳細は、例えば大山 (1973) を参照のこと。
剰余変数の統制、とりわけ剰余変数の効果の均衡化のためによく用いられる方法
の1つに、統制群法(control-group method) がある。この方法では、まず剰余変数
の効果の等しい2つ以上の被験者群を用意する。さらに、実験処理が加えられたり、
実験変数が操作される群を実験群 (experimental group) と呼び、実験処理の加え
られない群を統制群(control group) あるいは対照群と呼ぶ。統制群は1つである
のに対して、実験群は複数でもよい。両群のそれぞれに対しては、実験時に実験者
は被験者を無作為に割り付けないといけない。
参考文献
- 大山正編 (1973). 心理学研究法2 実験 I 東京大学出版会
- 中島義明他編集 (2005). マルチラテラル心理学 有斐閣