平成4年度問題24への解答・解説
この頁は、平成14年9月9日に新たに開設しました。
この頁は、令和2年5月2日に一部更新しました。
このページでは、平成4年度問題24への解答・解説・問題の評価を行う。
1) 正解 a
2) 解説
この種の試験問題も、たくさんの問題があり、時間のことを考えるとすべての
選択肢をまんべんに読んでから解答を出すという戦略は、必ずしもベストではなか
ろう。1つのやり方としては、受験者本人が選択肢の中で間違いを確信できる選択
肢を消していく方法が効率的であろう。ただし、この問題については最初の記述
A. が(テスト理論では基礎的事項ではあるが)素人にとってはかなり専門的であ
るので、難しかろう。
まず、最初の A の記述を見てみよう。もし、これが正しいかどうか、判断がつき
かねるとしよう。このような場合は、あとの記述を見ていくしか手がない。
- B は、「その検査が諮ろうとしているものをどの程度測定しているか ...」
が妥当性であることに気付けば、間違いであることがわかる、
- C は、正しい、ことがわかっている、
としよう。この時点で、B は×、C は〇、であるので、
ことができる。結局、上述のような受験者の知識レベルでは、最後の記述 D. まで
見ることになる。
記述 D. は、紛らわしい。検査の信頼性とは、結局検査を少し角度を変えても、
また時間的に離れていない時点で再度検査しても検査得点が大きく異ならないこと
であるが、問題中の「安定度」という言葉は微妙である。しかし、正確に言うと
すれば、まさに「信頼性」が正しいので、正解は、選択肢 a. である。
3) 問題24の評価
問題24は、問題としてあえて指摘するとすれば、以下の点である:
- 記述 D. での、「安定度」という言葉が紛らわしく、信頼性を定義するため
には、相関係数を利用する方法以外に、測定誤差を利用する方法があることを知って
いないと、正解に迷うところである。
テスト(検査)の信頼性 (reliability)
同一被験者に同一条件下で同一の検査を繰り返し実施したとき、同一の得点が得ら
れる程度を検査の信頼性という。
現実問題としては、同一被験者に同一条件下で同一の検査を繰り返し実施すること
は不可能に近い。そのため、同質な被験者集団に対して、一、二度検査を実施し、信
頼性を評価する。ここで、
X i =T i + E i ,
とする。X i は、被験者 i の測定値、T i は同 i の真値、
E i は同 i の測定誤差とする。ここで、T i および
E i の平均値をそれぞれ m, 0 と仮定する。また、X i ,
T i , E i の分散を、それぞれ V(X), V(T), E(T) とする。
このとき、真値 T と誤差 E が独立ならば、T と E は無相関(共分散ゼロ)となり、
V(X) = V(T) + V(E),
が成り立つ。
一般に、検査の信頼性係数 (coefficient of reliability) は、つぎのい
ずれかの式(これらは同等)で定義される。
- 測定値 X と真値 T の相関係数(これは、信頼性指数 index of
reliability と呼ばれる)の二乗
- 測定値の分散に占める真値の分散の比、すなわち、V(T)/V(X)
- 誤差分散と測定値の分散による定義、すなわち、1 - V(E)/V(X)
信頼性係数を推定する方法としては、再検査法、平行検査法、折半法、内部整合
性に]基づく方法などがある。
- 平行検査法 - 形式・内容共に等質(等平均、等分散)な2種類の問題
を作成し、同一被験者群に両検査を別々の機会に実施し、両得点の相関係数を信頼性
(度)係数とする(厳密には実施不可能)。
より正確には、等質な2種類のテストを X1、X2 とすると、
平行テスト(正確には強平行テスト)では、
ρx=ρ X1 X2
=Cov (X1, X2)
/[√(V(X1) √(V(X2)]
=V(T)/V(X),
が成り立つ。
- 再検査法 - 同一検査をある期間をおいて同一被験者に実施し、両得点の
相関係数を信頼性(度)係数とする。これによる係数は安定度係数
(coefficient of stability) とも呼ばれる (Cronback, 1951, p.298)。
より正確には、同一検査を時点 s と t で実施するとして、その得点を
Xs、Xt とすると、
ρx=ρ Xs Xt
=Cov (Xs, Xt)
/[√(V(Xs) √(V(Xt)]
=V(T)/V(X),
が成り立つ。
- 折半法 - 検査を2つの部分に分け、両者が平行検査の条件を満たすと
き、両得点の相関係数 r12 から、信頼性係数を 2*r12/(1 + r12) として計算する方
法。これは、スピアマン・ブラウン (Spearman-Brown) の公式と呼ばれる。
- 内部的一致性による方法 - 等質な検査は内部的一致性が高いことを用
いた信頼度を表す方法には、クーダー・リチャードソン (Kuder-Richardson) の
第20及び第21公式やクロンバックのアルファ係数 (Cronbach's coefficient, alpha)
などがある。アルファ係数は、信頼性係数の下限値を与えることや、検査同士の真
値の差が等しいかゼロの場合、信頼性係数と一致することなどがわかっている。一方、
クーダー・リチャードソンの公式(とりわけ、第20公式)は、クロンバックのα係
数の特別な場合、すなわちデータが2値(正答か誤答か)のケースである。また、第
21公式は、第20公式で、すべての下位項目の困難度(正答率)が等しい場合を指す。
歴史的には、2値データの場合のクーダー・リチャードソンの公式(Kuder & Richardson, 1937)
を、クロンバック(Cronbach, 1951) が一般の場合に拡張した。
引用文献
- Cronback, L. J. (1951). Coefficient alpha and the internal structure
of tests. Psychometrika, 16, 297-334.
- Kuder, G. F. & Richardson, M. W. (1937). The theory of the estimation
of test reliability. Psychometrika, 2, 151-160.