第1章 微積分入門のホームページへようこそ

Eric's color bar icon

 このページでは、微分積分学の入門的知識について解説する。

Eric's back icon

Eric's color bar icon

この頁は、平成16年7月22日に新たに開設しました。
この頁は、令和2年5月18日に一部更新しました。

第1章 微積分入門

この章では、微積分の入門レベルの内容について述べる。ここでは、特別に述べない かぎり、関数の定義域(domain) も、値域(range) もともに実数とする。

1.1 微分の基礎

1.1.1 数の集合の限界と極限

 以下の議論のため、集合 (set) の概念について、まず簡単にふれ る。一般に集合とは、何らかの共通特性を持つ物の集まり (a collection or family of things) で ある。物は数字とは限らず、例えば世界の自動車メーカーでもよいし、地球上の生物でもよい。集合 に属する物は、集合の要素あるいは (elements, or members) と呼ばれる。

 一方、要素が存在しない集合は、空集合 (the empty set) あるいは 零集合 (the null set) と呼ばれ、φ と書かれる。また、要 素が1つしかない集合は 単集合 (singleton) と呼ばれる。

 つぎに、2つの集合 A と B があるとき、もし B のすべての要素が A の要素でもある場合、B は A の 部分集合 (a subset) と呼ばれ、通常 B ⊂ A と書かれる。例えば、 整数の集合を I、実数の集合を R と書けば、I ⊂ R である。もし B ⊂ A でありかつ A ⊂ B ならば、 2つの集合は等しく A = B と書く。また、もし A と B が等しくない場合、A の 空でない (a nonempty) 部分集合 B は、真部分集合 (a proper subset) と呼ばれる。

 最後に、2つの集合 A と B のどちらかに含まれるすべての要素から成る集合は、 和集合 (the union of the sets) と呼ばれ、A ∪ B と書かれる。これは、 A ∪ B ≡ { a| a⊆ A or a ⊆ B } のように表記できる。一方、2つの集合 A、B に対して、 それらの両方に含まれる要素から成る集合は、共通集合 (the intersection of the sets) と呼ばれ、A ∩ B ≡ { a| a⊆ A and a⊆ B } のように表記できる。

定義1(デデキントの切断)

 すべての数を S、T の二組の集合に分けて、S に属する各数を T に属する各数よりも小さくすることができ たとするとき、このような組み分け (S,T) を デデキントの切断 (Dedekind's cut) といい、S を下組、T を上組という。

公理1(デデキントの連続性)

 実数集合 R の空でない部分集合 S、T による任意の切断 ( S , T ) に対して、ある x ⊆ R が存在して、すべての s ⊆ S は s ≦ x であり、すべての t⊆ T は t≧ x となるような x は唯一つ存在する。

 この公理は、デデキントの連続性公理 (Dedekind's axiom of continuity) と呼ばれる。

(註1) 切断は理論上つぎの三つの型が可能である。

  1. 下組に最大数があり、同時に上組に最小数がある。つまり、両組の間に飛びがある。(整数の範 囲では、この型の切断に限られる)

  2. 下組に最大数がなく、かつ上組に最小数がない。つまり、両組の間に途切れがある。(有理数の 範囲では、1の型は無理であるが、この型は可能である。

  3. 下組または上組に最大または最小があり、他方には端がない。つまり、下組と上組は連続してい る。(実数の切断は、うえの公理にあるように、この型に限られる)

定義2(有界、上界、下界、及び上限、下限)

 集合 S に属する数がすべて一つの数 M よりも大(あるいは小)でない時には、S は 上方に有界 (bounded downwards) 、あるいは 下方に有界 (bounded upwards) といい、M をその一つの上界 (an upper bound) あるいは1つの下界(a lower bound) という。 また、上方にも下方にも有界ならば、単に有界(bounded) という。

  1. (註1) 定義2における M は、必ずしも集合 S に属する必要はない。

  2. (註2) 任意の集合 S を考えると、S は必ずしも上方または下方に有界とは限らない。 例えば、すべての実数やすべての有理数は、上下共に有界ではない。

  3. (註3) また、集合 S の一つの上界に対して、それより大きな数はやはり一つの上界 であり、下界についても同様である。したがって、集合の限界としては、可能な限り小さな上界、お よび同大きな下界が重要である。

定義3(上限、下限)

 集合 S の上限 (supremum、略して sup.)a とは、つぎの2つを満 たす数である:

  1. S に属するすべての数 x に対して x ≦ a。

  2. a' < a ならば、a' < x なるある数 x が S に属する。

下限 (infimum、略して inf.)については、不等号の向きを変えればよい。

  1. (註1) うえの条件1は、a が S の上界であること、条件2は、a よりも小さな上界 はないことを意味しており、上限とは最小上界といえる。逆に、下限とは最大下界である。

  2. (註2) 上限、下限も共に、必ずしも集合 S に属する必要はない。

  3. (註3) まず、上下とも有界でない集合の例としては、すべての実数の集合、あるいはすべ ての有理数の集合があげられる。つぎに、有界でかつ上限、下限が共に存在する集合の例としては、例えば 閉区間 [ a , b ] に含まれるすべての実数の集合、やすべての有理数の集合があげられる。これらの場合の 上限は a、下限は b である。また、例えば q2 < 3 なる有理数の集合 q も有界でかつ上限も下 限も存在し、上限は √(3) 下限は -√(3) である。また、上下共に有界ではなく、上限も下限も存在しない 集合の例としては、開区間 (a , b) のすべての実数の集合、あるいは同開区間のすべての有理数の集合である。

  4. (註4) うえの複数の例から明らかなように、上界・下界、上限・下限共、必ずしも集合 S に 属する必要はない点が重要である。

定理1(ワイエルシュトラス)(Weierstrass' theorem)

 数の集合 S が上方または下方に有界ならば、S の上限または下限が存在する。

[ 演習 1.1 ] 定理1を証明せよ。

1.1.2 数列の極限と集積点

定義4(数列)

 a1, a2, ..., an のように無数の数を一定の順序に並べたものを 数列 (sequence) という。ここで、n は 自然数 (natural number) であり、an は変数 n の関数である。この関数が確定したとき、 数列を { an } と書く。

定義5(極限)

 n を限りなく大きくするとき、an がある決まった値 c に限りなく近づくならば、

(1.1)

と書く。また、このとき数列 { an } は c に収束する (converge) するといい、c を { an } の極限 (limit) という。

定理2

 an → c ならば、|an|< M なる定数 M が存在する。また、| c | ≦ M .

[ 演習 1.2 ] 定理2を証明せよ。

定義6(単調数列)

 数列 { an } が、a1 < a2 < ... < an < ... のように、 各項がその番号と共に増大するとき、数列は単調に増大するという。一方、不等号を逆にした場合は、 数列は単調に減少するという。単調に増大または減少する数列は、 単調数列 (monotone sequence) という。

定理3

 有界な単調数列は収束する。

[ 演習 1.3 ] 定理3を証明せよ

定義7(集積点)

 一つの集合 S について、ある点 A が集積点であるとは、点 A にどれだけ近いところにも S に 属する点があることをいう。ただし、A は必ずしも S に属する点でなくてよい。

定理4

 有界な無数の点の集合には、必ず集積点が存在する(ワイエルシュトラス)。

[ 演習 1.4 ] 定理4を証明せよ

定理5

 有界な閉区域 K において連続な関数 f ( K ) は有界で、かつその区域で最大及び最小値に達する。

[ 演習 1.5 ] 定理5を証明せよ

定義8(閉集合)

 点集合 S のすべての集積点が S に属するとき、S は閉集合 (closed set) という。

1.1.3 微(分)係数、導関数

定義9(関数の極限)

 f ( x ) を x の関数とし、x = a では f ( x ) は必ずしも定義されていないものとする。 x を a に限りなく近づけるとき、f ( x ) がある決まった値 c に限りなく近づくとき、これを

(1.2)

と書き、c を x が a に近づいたときの f ( x ) の極限 (limit) という。

より正確な極限の定義は、つぎのようである: 定義10(関数の極限)

定義10(関数の極限)

 limx→ af ( x ) = c とは、どんな正数 ε を任意に与えても、ある適当な正数 δ をとり、 | x - a | < δ のようなすべての x について、| f ( x ) - c | < ε とすることができることである。

 関数の極限の記号を用いると、f ( x ) の微分係数をつぎのように定義できる。

定義11(微(分)係数)

 f ( x ) に対して

(1.3)

が存在すれば、x = a における関数 f ( x ) の x についての微(分)係数 (differential coefficient) という。なお、このとき x = a で関数 f (x) は可微分 (differentiable) であるという。

 ここで、(1.2) 式における a をいろいろ変えると、微(分)係数はその関数となる。 このことから、微(分)係数はそれを取る場所の関数と考えるとき、もとの関数の 導関数(derivative) という。すなわち、f ( x ) の導関数 f '( x ) は、 つぎのように書ける:

(1.4)

定義12(関数の連続性)

 関数 f ( x ) が x = a において連続 (continuous) であるとは、 limx→ af ( x ) が存在し、かつこれが f ( a ) に等しいことをいう。また、 f ( x ) が x のある区間において連続 であるというのは、この区間内 の各点で f ( x ) が連続であることをいう。

(註) 一般に、x = a で f ( x ) が可微分ならば、x は a で連続であるが、その逆は必ずしも成り立 たない。

定理6(連続関数の一様連続性)

 関数 f ( x ) が a≦ x ≦ b で連続ならば、任意の正数 ε を与えたとき、これに応じて適当な幅 δ をとれば、 この区間のどの場所にでも、距離が δより小すなわち | ξ 1 - ξ 2 | <δ なる二点を とれば必ず| f ( ξ 1 ) - f ( ξ 2 ) | < ε とすることができる。

 これは連続関数の一様連続性 (uniform continuity) といわれる。

[ 演習 1.6 ] 定理6を証明せよ。

定理7(中間値) (the intermediate value theorem)

 ある区間 I で連続な関数 f ( x ) が、この区間内の点 a、b で相異なる値 f ( a ) = α、 f ( b ) = β を取るとする。この時、α、β の中間の任意の値 を μ とすれば、

(1.5)

なる点 ξ が存在する。

[ 演習 1.7 ] 定理7を証明せよ。

(註1)Atkinson (1978, pp.3-4) では、高木の紹介する中間値の定理と少し異なる定義がなされている。すなわち、

定理7'

 関数 f ( x ) は、[ a , b ] で連続で、m = inf. f ( x ), a≦ x ≦ b、 M = sup. f ( x ), a≦ x ≦ b とする。この時、区間 [ m , M ] に含まれる任意の数 μ に対して、f ( ξ ) = μ なる ξ が区間 [ a , b ] 内に少なくとも1点存在する。とりわけ、区間 [ a , b ] 内には、f ( p ) = m, f (q) = M なる2点 p、q が存在する。

定義13(無限大、無限小)

 (一般には、複素値)関数 f ( x ) が limx → a f ( x ) = ∞ または limx→a f ( x ) = 0 の場合、それぞれ f を a における無限大 (infinity)、または 無限小 (infinitesimal) という。

定義14(無限大、無限小の位数)

  1. 2つの無限大、f、g について

    1. f / g が無限小のとき、f を g より 低位の(lower order) 無限大、 g を f より高位の (higher order) 無限大という。

    2. 同位の無限大を記号 ~ で表すとすれば、f ~ gn のとき、f は g に関して 位の 無限大という。

  2. 2つの無限小、f、g について

    1. f / g が無限小ならば、f は g より高位の無限小、g は f より低位の無限小という。同位の無限小、 n 位の無限小は、無限大の場合と同様に定義する。

定義15(無限大、無限小についての Landau の記号)

 f、g が共に無限大か、共に無限小の場合、

  1. x → a のとき、| f ( x ) / g ( x ) | が有界ならば、f ( x ) は高々 g ( x )の 位数 (order) であるといい、つぎのように書く:

    limx→af ( x ) = O ( g ( x ) )

  2. x → a のとき、f ( x ) / g ( x ) が無限小ならば、f ( x ) は g ( x ) より小さい位数にあるといい、 つぎのように書く:

    limx→af ( x ) = o ( g ( x ) )

ここで、O, o は、ドイツ語の Ordnung (英語 order) の頭文字で、Landau の記号 (Landau's symbol) という。

無限小についての性質

  1. 常数 × 無限小は無限小

    limx→aη = 0   ならば   limx→akη = 0,   k は常数

  2. 無限小の和は無限小

    limx→aη1 = 0, limx→aη2 = 0   ならば    limx→a( η1 + η2 ) = 0

  3. 逆数の無限小については、c をゼロでない常数とすると、

    limx→aη = 0   ならば   limx→a [ 1 / ( c + η ) ] = 1 / c

[ 演習 1.8 ] 上の無限小についての各性質を、関数の極限の定義10を用いて 証明せよ。

 うえの無限小についての性質を用いると、つぎの極限演算の法則を導くことができる。ここで、 limx→af ( x ) = p、limx→ag ( x ) = q とする:

極限演算の法則

  1. limx→af ( x ) = p で、k が常数ならば、

    limx→akf ( x ) = kp

  2. 和の極限は極限の和

    limx→a[ f ( x ) + g ( x ) ] = p + q

  3. 積の極限は極限の積

    limx→a[ f ( x ) g ( x ) ] = pq

  4. 商の極限は極限の商

    q ≠ 0   ならば   limx→a[ f ( x ) / g ( x ) ] = p / q

[ 演習 1.9 ] 上の極限演算の4つの法則を証明せよ。(ヒント:関数の極限 (1.2) 式は、無限小 η を用いて f ( x ) = c + η とも書けることに注意)

 うえの極限演算の法則を用いると、つぎの微分演算の法則を導くことができる

微分演算の法則

  1. 常数の導関数はゼロ

  2. ( cy )' = cy'

  3. 和の導関数は、導関数の和

    u = y + z   ならば   u' = y' + z'

  4. 差の導関数は、導関数の差

  5. 導関数の線形性

    ( cy1 + cy2 + … + ck yk )' = c1 y1' + c2 y2' + … + ck yk'

  6. 積の導関数

    u = yz   ならば   u' = y' z + y z'

  7. 3つ以上の積の導関数

    y = y1 y2 … yn   ならば   y' = y1' y2 y3 … yn + y1 y2' y3 … yn + … + y1 y2 y3 … yn'

  8. 商の導関数(ただし、分母はゼロでないとする)

    u = y / z   ならば   u' = ( y' z - y z' ) / z2

  9. 逆数の導関数

    ( 1 / z )' = - z' / z2

[ 演習 1.10 ] 上の9つの微分演算の法則を証明せよ。

 うえの極限演算の法則は、導関数を用いた表現であるが、微分の形で表すと つぎのように書ける:

  1. a が常数ならば da = 0

  2. c が常数ならば d ( cy ) = c dy

  3. d ( y + z ) = dy + dz

  4. d ( yz ) = z dy + y dz

  5. d ( y / z ) = ( z dy - y dz ) / z2

  6. 関数の関数の導関数

    z = g ( y ), y = f ( x ) のとき、

  7. 逆関数の導関数

  8. 導関数の媒介変数表示

    y = f ( t ), x = g ( t ) とすると、

1.1.4 基本的な微分公式および関連定理

 ここでは、まず基本的な微分に関する公式を列挙する:

  • ( xn )' = nxn-1 (ここで、n が無理数の時に限り x > 0)

  • ( ex )' = ex

  • ( ax )' = ax ln a

  • ( ln x )' = 1 / x

  • ( loga x )' = ( 1 / ln a )( 1 / x )

  • ( sin x )' = cos x

  • ( cos x )' = - sin x

  • ( tan x )' = sec2 x

  • ( cot x )' = - cosec2 x

  • ( sec x )' = sec x tan x

  • ( sin-1x )' = 1 / √( 1 - x2 )

  • ( cos-1x )' = - 1 / √( 1 - x2 )

  • ( tan-1x )' = 1 / ( 1 + x2 )

  • ( cot-1x )' = - 1 / ( 1 + x2 )

  • ( xx )' = ( 1 + ln x ) ex ln x

  • [ 演習 1.11 ] 上の最初の微分公式を証明せよ。

     以下に、微分に関する幾つかの基礎定理をあげる。

    定理8(ロル) (Rolle's theorem)

     関数 f ( x ) が区間 a≦ x ≦ b で連続、a < x < b で可微分、f ( a ) = f ( b ) ならば、a < x < b の 範囲のある点 ξ において必ず f '( x ) = 0 となる。

    [ 演習 1.12 ] ロルの定理を証明せよ。

    定理9 (平均値)(the mean value theorem)

     関数 f ( x ) が区間 a ≦ x ≦ b で連続、a < x < b で可微分であるならば、

    であるような ξ が存在する。

    [ 演習 1.13 ] 平均値の定理を証明せよ。

    定理10 (コーシーの平均値)(Cauchy's mean value theorem)

    区間 [ a , b ] において f ( x )、g ( x ) は連続で、( a , b ) において微分可能 とする。その時、( a , b ) 内のある点 ξ において、

    (1.6)

    ここで、g ( a ) ≠ g ( b ) であり、f ( x )、g ( x ) は区間内で同時にゼロにはならないものとする。

    [ 演習 1.14 ] コーシーの平均値の定理を証明せよ。

    定理11 (積分平均値)(the integral mean value theorem)

    関数 w ( x ) はゼロ以上で、かつ [ a , b ] で積分可能、すなわち

    (1.7)

    とし、f ( x ) は [ a , b ] で連続とする。この時、区間 [ a , b ] には、

    (1.8)

    なる点 ζ が少なくとも1つ存在する。

    [ 演習 1.15 ] 積分平均値の定理を証明せよ。

     (註1)積分平均値の定理の幾何学的意味は、w ( x ) = 1 の時わかりやすい。なぜならば、

    であるから。

    定理12 (テイラー)(Taylor's theorem)

     関数 f ( x ) がある n ≧ 0 に対して閉区間 a ≦ x ≦ b(略して [ a , b ] )で n + 1 回微分可能であり、 x , x0 ⊆ [ a , b ] であるとする。この時、

    (1.9)

    と書ける。ここで、f(0)( x0 ) = f ( x0 ) とする。また、 Rn+1( x ) は 剰余 (the remainder) と呼ばれる。 剰余には2種類がよく知られている:

    1. コーシー型剰余(the remainder term in the Cauchy form)
                 (1.10)

      ここで、x0 < ξ < x とする。

    2. ラグランジュ型剰余(the remainder term in the Lagrange form)
                  (1.11)

      ここで、x0 < ζ < x とする。

    [(註1)] (1.11) 式の剰余を(Atkinson, 1978, p.5) は積分表示している:
                (1.12)

    [(註2)] (1.10) 式のコーシー型剰余は、つぎのシュレーミルヒの剰余 (the remainder term in the Schlomilch form) で q = n の場合の特別なケースである。ここで、 q は一般には、0 ≦ q ≦ n である。

     ここで、θ は、ξ = x0 + θ( x - x0 ) により定義される(小平、1976)。

    [ 演習 1.16 ] テイラーの定理を証明せよ。

    定理13

     関数 f ( x ) がある n ≧ 0 に対して閉区間 a ≦ x ≦ b(略して [ a , b ])で n 回微分可能であり、 点 x = x0 で f(n+1)( x0 ) が存在し、x , x0 ⊆ [ a , b ] であるとする。この時、

    (1.13)

    と書ける。

    [ 演習 1.17 ] 定理13を証明せよ。

    [例1]  ex の x0 = 0 での テイラー展開

         あるいは、

    [例2]  sin ( x ) の x0 = 0 におけるテーラー展開

  • [(註1)] 定理13は、定理12(テイラーの定理)の (1.9) 式での剰余項 Rn+1( x ) を、

               (1.14)

    と書くことにあたる。ここでは、さらに定理13の関数 f ( x ) は、n 回微分可能 であり、かつ点 x = x0 でのみ f(n+1)( x0 ) が存在すればよい点に注意。

  • [(註2)] 定理13の証明(とりわけ、付録 (A.37) 式)から明らかなように(1.14) 式は、

               (1.15)

    とも書ける。
  • [(註3)] (1.14) 式や (1.15) 式の、テイラーの定理における Landau の 記号による剰余の表現は、n → ∞ の時の剰余の振る舞いに関するもので はなく、x → x0 の時の剰余の振る舞いに関するものであることに注意。

  • [(註4)] テイラーの定理で、x0 = 0 の場合は、マクローリン の定理 (MacLaurin's theorem) と呼ばれる。

  • [(註5)] 統計学で用いられる展開の一つに、テイラー展開とは異なる 漸近展開 (asymptotic expansion) がある。例えば、ある分布関数 Fn( x ) が漸近的に正 規分布の分布関数に従うとする。これは、あくまでも n → ∞ の時の話であり、分布関数の、正規分布(分布関数) による第1近似とみなせる。この近似をさらによくするために利用されるのが漸近展開であり、k 個の関数 g1( x ) , ... , gk( x ) を用いて、つぎのような エッジ ワース展開 (Edgeworth expansion) を行なうことがある。
     その場合の Landau の記号による表現では剰余の位数は、展開の性質上、n-k/2(すなわち、 サンプル数 n の関数)となる。ここで、G ( x ) は単位(標準)正規分布の分布関数とする。

               (1.16)

     ここで、(1.16) 式を k = 1 の場合に、より具体的に書くためには、φ(x) を単位正規分布の密度関数として、 つぎのエルミート多項式 (Hermite polynomial) Hk( x )

               (1.17)

    を用いると便利である。Hk( x ) は、k 次の多項式で、例えば、H0( x ) = 1、 H1( x ) = x、H2( x ) = x2 - 1、等となる。これを用いると、

               (1.18)

    と書ける。ここで、基準化されたキュミュラント γi は、γi = κi / σi, i = 3 , ... , m とする。

     また、同じく分布関数 Fn( x ) が単位正規分布の分布関数 G ( x ) で近似できる場合、 Fn( x ) のパーセント点を G ( x ) のパーセント点で近似する問題を考えると、前者の下側 100 α パーセント点を Fn(-1)( α )、後者のそれを zα と書くと すると、 Fn(-1)( α ) は、

               (1.19)

    と書ける。この種の展開は、コーニッシュ・フィッシャー展開 (Cornish- Fisher expansion) と呼ばれる(統計学辞典、1989)。

  • References

    Atkinson, K. E. (1978). An introduction to numerical analysis, New York: Wiley.

    Bowen, R. M., and Wang, C.-C. (1976). Introduction to vectors and tensors - Linear and multilinear algebra. New York: Prenum Press.

    Bridges, D. S. (1998). Foundations of real and abstract analysis, New York: Springer.

    Courant, R., and John, F. (1974). Introduction to Calculus and Analysis, Vol.2, New York: Wiley.

    小平邦彦 (1976). 解析入門 II 岩波

    高木貞治 (1971). 解析概論 改訂第三版 岩波

    竹内啓編 (1987). 統計学辞典 東洋経済

    宇野利雄 (1967). 微分積分学 I 共立出版

    Appendix A

    微積分入門

     ここでは、第1章 微積分入門における演習問題の証明を行なう。それぞれの証明は、多くの場合、対応する 各証明の末尾に示した引用文献の証明を一部敷衍した。

    演習 1.1(ワイエルシュトラスの定理)

       (証明) まず、S は下方に有界であるとして、下限の存在を証明する。S の一つの下界を a とすれば、 a より小さな数もやはり S の下界である。ここで、S の下界であり得るすべての数を A(下組)とし、その他を B(上組)とすれば、一つの(デデキントの)切断が定義できる。実際、B に属する数は、S の下界ではないので、 どんな下界より大である。したがって、A に属するどんな数よりも大である。この切断により決まる数を c とする。 この時、c は A に属して A の最大数であるか、さもなければ B に属して B の最小数である(公理1)。
     ここで、c は B に属すると仮定してみる。この時、c は S の下界ではあり得ないので、c よりも小さくかつ S に属する数 x が存在する。すなわち、x < c である。つぎに、x と c の中間のある一つの数を b とする。すなわ ち、x < b < c とする。この時、b は Sに属する数 x より大なので、S の下界ではない。すなわち、b は B に属す る。しかし、b は c より小なので、矛盾する。したがって、c は B の最小数ではない。故に、c は Aの最大数、す なわち S の最大下界すなわち S の下限である。
     S が上方に有界なとき上限が存在することも、上と同様にして証明できる。□
    (高木, 1973, p.5).

    演習 1.2(定理2)

       (証明) ある正数 ε を取れば、仮定により n > p のとき、| c - an|< ε、 すなわち c - ε < an < c + ε なる自然数 p が存在する。そこで、| ai|, i = 1 , ... , p、 | c - ε |、及び | c + ε | のいずれよりも大きい数 M を取れば、任意の n に対して | an |< M が成り立つ。
     つぎに、an → c かつ | an| < M とする。もし、ここで| c | > M だと仮定すると、 | c | > M ' > M なる M ' が存在する。このとき、| c - an | > M ' - M > 0 となる。これは、 an → c と矛盾する。□
    (高木, 1973, p.6).

    演習 1.3(定理3)

       (証明) 単調数列が有界であるとする。この時、すべての n に関して、an < M なる定数 M が存在する。ここで、その上限(定理1)を c とすると、c は数列 { an } の極限である。なぜならば、 もし c' < c とすれば、上限の定義より、c' < ap ≦ c なる ap が存在するが、数列は単調 に増大するので、n > p のとき c' < an。しかし、すべての n に関して an ≦ c なので、 n > p のとき c' < an ≦ c。したがって、| c - an| < c - c'。ここで、c' は c より 小なる任意の数だったので、an → c。もちろん、c ≦ M。単調増大の意味を拡張して、a1 ≦ a2 ≦ ... ≦ an ≦ ... としても同様。□
    (高木, 1973, p.8).

    演習 1.4(定理4、ワイエルシュトラス)

       (証明) 簡単のため2次元の場合を証明する。この集合 S は有界なので、すべての辺がx 軸か y 軸に 平行な一つの正方形に含まれると考えてよい。Q には S の無数の点が含まれるので、Q を4つの正方形に等分 すれば、これらのうち少なくとも一つはその内部または周上に S の無数の点を含む。その一つを Q とする。 そのような正方形が二組以上あるときは、例えば象限順の最初のものを取るとする。
     同様に、Q1 は S に属する無数の点を含むので、Q1 を4つの正方形に等分すれば、 それらのうち少なくとも一つ(それを Q2 とすれば)は、必ず S の点を無数に含まねばならない。 このようにしていけば、Q1, Q2 , ... , Qn , ... なる正方形の列が生じ、 n → ∞ のとき、Qn の辺は限りなく小さくなる。
     ここで、常に Qn の4つの頂点の中で左下のもの(各座標が最小になるもの)を( an , bn ) とすれば、Q ⊃ Q1 ⊃ Q2 ⊃ ... Qn ⊃ ... なので、 a ≦ a1 ≦ a2 ... ≦ an ≦ ... 及び b ≦ b1 ≦ b2 ... ≦ bn ≦ ... が成り立つ。これら2つの数列は明らかに有界なので、定理3から、limn→ ∞an = α , limn→∞bn = β が言える。そこで、点 P = ( α , β ) は集積点である。
     なぜならば、今 ( α , β ) を中心とするどれだけ小さな円を取ってみても、十分大きなある番号以上は、 Qn はすべてその円に含まれる。しかし、Qn は S の点を無数に含むので、どれだけ ( α , β ) に近いところにも S の点が無数に存在する。□
    (高木, 1973, pp.14-15).

    演習 1.5(定理5)

       (証明) まず、有界な閉区域 K において連続な関数 f ( P ) は有界であることを証明する。最初に、 上界について証明する。もし、f ( P ) が上界を持たないとすれば、f ( P0 ) > 0 なる点 P0 がある。同様に、f ( P1 ) > 2f ( P0 ) なる点 P1、f ( P2 ) > 2f ( P1 ) なる点 P2 等がある。
     P1 , P2 , ... は無数の相異なる点で、K が有界なる閉領域なので、K において集積点 が存在する(定理4)。その一つを A とする。
     ここで、P1 , P2 , ... の部分列で A に収束するものを Pα1 , Pα2 , ... とする。このとき、limn→∞ f ( Pαn ) = f ( A )。しかし、このことは、f ( Pαn > 2αnf ( P 0 ) であり、αn は限りなく大きくなるので、これは不合理である。したがって、f ( P ) は上 界を持つ。
     下界についても同様である。 □
    (高木, 1973, p.27).

    演習 1.6(連続関数の一様連続性)

       (証明) まず、S = [ a , b ] を、a ≦ x ≦ b なる点の集合とする。もし、 f ( x ) が S 上のどの点 でも連続だとすれば、任意の正数 ε を与えたとき、S 上のどの点 ξ1 に対しても、S 上の任意の点 ξ 2 に対して | f ( ξ 2 ) - f ( ξ 1 ) | < ε / 2 なる半径 δ = δ ( ξ 1 ) なる ξ 1 の δ- 近傍 ( δ- neighborhood ) が存在する(なぜならば、関数 が連続ならば、定義4よりどの点でも極限が存在し、f ( x ) に等しい。そこで、定義2より)。
     つぎに、S 上のそれぞれの点 ξ 1 に対して、半径 ( 1 / 2 ) δ ( ξ 1 ) なる近傍 Ω P を考えよう。Ω P は、明らかに S を覆う。われわれは、それらの中から、やはり S を覆う中心 ξ 1 , ξ 2 , ... , ξ n を持つ有限個の点を選ぶことができ る。つぎに、( 1 / 2 ) δ ( ξ 1 ) , ... , ( 1 / 2 ) δ ( ξ n ) の中の最小な値を ζ と書くことにしよう。このとき、もし ξ 1 と ξ 2 が S 上で距離が ζ より小さい ところの2点であるならば、点 ξ 1 は点 ξ k , k = 1 , ... , n の中の1つからの距 離が ( 1 / 2 ) δ ( ξ k ) より小さい。ζ ≦ ( 1 / 2 ) δ ( ξ k ) なので、点 ξ 1 と ξ 2 は共に ξ k の δ ( ξ k ) - 近傍内に位置する。そ こで、

    (A.1)

    となり、そこで、

    (Courant & John, 1974, pp.112-113).

    演習 1.7(中間値の定理)

       (証明) まず、α < μ < β として、F ( x ) = f ( x ) - μ を定義する。この時、F ( a ) = α - μ < 0 かつ F ( b ) = β - μ > 0。また、F ( x ) は [ a , b ] で連続で、F ( a ) < 0 なので a のあ る近傍では F ( x ) < 0。そこで、[ a , η ] で常に F ( x ) < 0なる η が存在する。しかし、F ( b ) > 0 なので η < b。つまり、そのような η には上限がある。それを ξ とすれば、F ( ξ ) = 0 でなければな らない。
     ここで、もし F ( ξ ) < 0 ならば、区間 [ a , η ] は ξ を超えて延長される。それは ξ の意味(つま り、(1) 式の成立)に反する。一方、もし F ( ξ ) > 0 ならば、十分小さな ε に対して F ( ξ - ε ) > 0 で、[ a , η ] の右端 η は ξ - ε を超えない。それも ξ の意味に反する。そこで、F ( ξ ) = 0 、すな わち f ( ξ ) = μ。また、(前述の議論で、区間の右端には上限があるとの結果から)a < ξ ≦ b であったが、 f ( b ) = β ≠ μ なので、ξ < b。□
    (高木, 1973, p.27).

    演習 1.8(無限小の3つの性質)

    1. (証明) limx→aη = 0 なので、任意のε > 0 に対して | x - a | < δ なる δ に対して、|η - 0| < ε / | k | なる δ が存在する。これより、| kη | = | k | | η | < ε が 成り立つ。そこで、limx→akη = 0。 □

    2. (証明) limx→a η 1 = 0、limx→aη 2 = 0 よ り、任意の ε > 0 に対して | x - a | < δ 1 ならば | η 1 - 0| < ε / 2、| x - a | < δ 2 ならば | η 2 - 0| < ε / 2 なる δ 1 及び δ 2 が存在する。そこで、両者のうちの小さい方を δ とすれば、| x - a | < δ のとき、| η 1 | < ε / 2 , | η 2 | < ε / 2 とできる。そこで、

      (A.2)

      すなわち、limx→a ( η 1 + η 2 ) = 0。 □

    3. (証明) limx→a η = 0 なので、はじめに ε を十分小さく η < | c | / 2 ( | η | < | c | / 2 )のようにとっておく。このとき、| c + η | ≧ | c | / 2 が成り立つ ( | c + | c | / 2 | を c ≧ 0 のとき、及び c < 0 のとき、計算すればよい)。そこで、

      (A.3)

      が成り立つ。つぎに、η は無限小なので | x - a| < η なる正数 δ を適当に選び、正数 ε に対して、 | η | < | c2 |ε / 2 とすることができる。これより、| x - a | < δ のとき、

      (A.4)

    (宇野、1967, p.18)。

    演習 1.9(極限演算の4つの法則)

    1. (証明) limx→a f ( x ) = p なので、f ( x ) = p + η。そこで、k を常数とすれ ば、k f ( x ) = kp + k η。そこで、x → a のとき、右辺第2項は無限小の性質 a. を用いてゼロに近づく。 □

    2. (証明) (省略)

    3. (証明) limx→a f ( x ) = p かつ limx→a g ( x ) = q なので、 f ( x ) g ( x ) = ( p + η 1) ( q + η 2 ) = pq + p η 2 + q η 1 + η 1 η 2。そこで、x → a のとき、右辺第2項及び第3項は、 無限小の性質 a. よりゼロに近づく。一方、第4項は明らかにゼロに近づく。 □

    4. (証明) limx→a f ( x ) = p かつ limx→a g ( x ) = q なので、

      (A.5)

      と書ける。右辺第1項の 1 / (q + η 2 ) は、無限小の性質 c. を用いれば 1 / q なので、 第1項は結局 p / q に近づく。右辺第2項は、ゼロに近づく。 □

    (宇野、1967, p.19)。

    演習 1.10(微分演算の法則)

    1. (証明) (省略)

    2. (証明)  u = cy より Δu = c Δy なので、Δu / Δx = cΔy / Δx。そこで、極限演算の法則 I. より、

      (A.6)

    3. (証明) u = y + z より、2. と同様に Δu / Δx = Δ y / Δx + Δz / Δx が成り立つ。そこで、 極限演算の法則 II. より、

      (A.7)

    4. (証明) u = yz より、Δu = ( y + Δy )( z + Δz ) - yz が成り立つ。そこで、

      (A.8)

      そこで、limΔx→0( Δu / Δx ) = y'z + yz' が 成り立つ。 □

    5. (証明)  u = y / z より、Δu = ( y + Δ y ) / ( z + Δ z ) - y / z = { ( Δy ) z - y ( Δz ) } / { z ( z + Δz ) } が成り立つ。そこで、

      (A.9)

      そこで、limΔx→0( Δu / Δx ) = ( y'z - yz' ) / z 2 が成り立つ。 □

    6. (証明) 一般に、Δz / Δx = ( Δz / Δy ) ( Δy / Δx ) が成り立つ。そこで、

      (A.10)

    7. (証明) (省略)

    8. (証明) (省略)

    (宇野、1967, pp.22-23)。

    演習 1.11(一般の実数 n に対して、( xn )' = nxn-1

       (証明) 

    1. n が正整数の時

       積の微分演算の法則を一回用いると、 ( x n )' = ( x x n-1 )' = x n-1 + x ( x n-1 )'。 これを r 回繰り返すと、( x n )' = r x n-1 + x r ( x n-r )', r = 1 , 2 , ...。この式で、r = n - 1 とおけば、( x n )' = ( n - 1 ) x n-1 + x n-1。 □

    2. n が負整数の時

       n = - m ( m は正整数)として、逆数の導関数の場合の微分演算の法則より、 ( x n )' = ( 1 / x m )' = - ( x m )' / x 2m = - ( m x m-1 ) / x 2m = n x n-1。 □

    3. n が 0 の時

       ( x 0 )' = 0 より、定数の導関数の法則にあてはまる。 □

    4. n が有理数の時

       n = p / q ( p と q は互いに素)とすると、y = x n = x p/q。これより、 y q = x p = z とおけば、dz / dx = p x p-1
        一方、z = x p = ( x p/q ) q = y q とおけば、 dz / dx = ( dz / dy ) ( dy / dx ) = q y q-1 ( dy / dx )。これらより、 p x p-1 = q y q-1 ( dy / dx )。故に
       dy / dx = ( p / q ) ( x p-1 / y q-1 ) = ( p / q ) ( x p-1 ) y 1-q = ( p / q ) x p-1 x (p/q)(1-q) = ( p / q ) x p-1 x p/q-p = ( p / q ) x p/q-1。 □

    5. n が任意の実数(無理数を含む)の時

       最初に、x n は x に対して連続であることを証明する。ここで、δ > 0 であり、m は m > n なる最小の整数とする。また、x > 0 とする。

      1. ( n > 0 )の時

         x > 0 ならば、

        (A.11)

         ここで、δ / x を十分小さなある値 h > 0 より小さい値にとっておき、右辺のカッコ内に h = δ / x を 代入して計算した値を H とすれば、右辺の括弧内は、H より小さくとれる。すなわち、 ( x + δ ) n - x n < x n-1 Hδ と書ける。そこで、任意正数 ε に対して、 δ < ε / ( x n-1 H ) となるように δ を選べば、( x + δ ) n - x n < ε にすることができる。x < 0 ならば、逆数を考えればよい。

      2. ( n < 0 )の時

         x < 0 ならば、逆数を考えればよい。

       つぎに、y = x n に対して、x > 0 より、両辺の対数をとると、ln y = n ln x。 この式を微分すれば、( 1 / y ) ( dy / dx ) = n / x。そこで、dy / dx = ny / x = n x n-1。 □

    (宇野、1967, p.26, pp.55-56)。

    演習 1.12(ロルの定理)

       (証明) まず、a < x < b で f ( x ) = c ならば、定理は自明である。もし、f ( x ) > f ( a ) ならば連続なので、定理5より最大値が存在する。その点を x = ξ とすると、f ( ξ ) は最大なので、 ξ の近傍 Δx を考えると、Δx > 0 ならば、Δf / Δ x ≦ 0。一方、Δx < 0 ならば、Δf / Δx ≧ 0。 ここで、f ( x ) は a < x < b で可微分なので、共に f '( ξ ) に収束する。したがって f '( ξ ) = 0。
     もし、f ( x ) < f ( a ) ならば、最小値を考えればよい。 □
    (高木、 1973, p.47)。

    演習 1.13(平均値の定理)

       (証明) g ( x ) = f ( x ) - kx なる関数 g ( x ) を考える。このとき、g ( a ) = g ( b ) なる k を考えると、ロルの定理より、そのような k に対して、g '( ξ ) = f '( ξ ) - k = 0 なる ξ が存在する。 ところで、そのような k は、g ( x ) から k = ( f ( a ) - f ( b ) ) / ( a - b )。 □
    (高木、1973, p.48)。

    演習 1.14(コーシーの平均値の定理)

       (証明) まず、h ( x ) = μ f ( x ) - λ g ( x ) と置く。ここで、μ 及び λ は、 h ( a ) = h ( b ) を満たすとする。そのような μ 及び λ は、

    (A.12)

    この時、

    (A.13)

    この時、ロルの定理から h '( ξ ) = 0 なる ξ が 4a < ξ < b に存在する。
     そこで、

    (A.14)

    そこで、

    (A.15)

    ここで、g ' ( ξ ) はゼロでない。なぜならば、もし g '( x ) = 0 ならば定理の仮定1、 すなわち g ( a ) ≠ g ( b ) より、f '( ξ ) = 0 となるが、このことは仮定2に反する。 そこで、(A.15) 式の両辺を [ g ( b ) - g ( a ) ] g '( ξ ) で割れば、定理の式を得る。 □
    (高木、1973, pp.48-49)。

    演習 1.15(積分平均値の定理)

       (証明) ここで、最初に

    (A.16)

    を定義する。
     g ( u ) は、f ( u ) の定数倍にもう1つの定数を加えたものに等しいので、[ a , b ] で連続である。中間値の定理(定理2'の方)における点 p を用いると、

    (A.17)

    が成り立つ。なぜならば、f ( x ) の区間 [ a , b ] での下限 (infimum) を与える点 p に対して、 中間値の定理より [ a , b ] で f ( p ) - f ( x ) ≦ 0 が成り立つので。その結果、g ( p ) は 正にはならない。
     同様にして、f ( x ) の [ a , b ] での上限 (supremum) を与える点 q に対して、

    (A.18)

    (A.17)、(A.18) 式より、g ( u ) は p と q の間の点 ζ でゼロでなければならない。 □
    (Atkinson, 1978, pp.4-5)。

    演習 1.16(Taylor の定理)

       (証明) 
     ここでは、高木 (1973)、Atkinson (1978)、及び Bridges (1998) による3種の証明を敷衍して紹介する。 前二者はラグランジュ型剰余の場合、Bridges では両方の場合を証明している。また、高木、Bridges が コーシーの平均値の定理(定理11)を用いているのに対して、Atkinson は、積分平均値の定理(定理10) を用いているのが特徴的である。

    1. 高木の証明

       まず、g ( x ) を次のように定義する:

      (A.19)

      この時、

      (A.20)

      ここで、g ( x ) と h ( x ) = ( x - x 0 ) n+1 に対して、 コーシーの平均値の定理を用いれば、( g ( x 0 ) = h ( x 0 ) = 0 より )

      (A.21)

      同様に、g '( x 0 ) = h '( x 0 ) = 0 より、

      (A.22)

      (A.23)

      これより、

      (A.24)

    2. Atkinson の証明

       まず、つぎの等式から始める:

      (A.25)

      (A.25) 式の右辺第2項を部分積分すると、

      (A.26)

      (A.26) 式の右辺第2項を同様に積分すると、

      (A.27)

      上記積分を n 回繰り返せば、本文 (1.8) 式、及び (1.11) 式の第2項、すなわち

      (A.28)

      が得られる。(A.28) 式から、本文 (1.11) 式の末尾の項を導くには、(1.8) 式の右辺第1項の関数と、 新たな関数 w ( t ) = ( x - t )n に対して、積分の平均値の定理(定理11)を用いればよい。 □

    3. Bridges の証明

       ここではまず、剰余項 Rn+1( x ) はコーシー型であるとする:まず、 a ≦ x ≦ b で、一般性を失わず、われわれは x 0 < x とする。ここでつぎの 関数 g : [ x 0 , x ] → R を考えよう。

      (A.29)

      このとき、

      (A.30)

      ここで、平均値の定理(定理9)を用いれば、

      (A.31)

      このとき、g ( x ) = 0 より、

      (A.32)

       つぎに、剰余項がラグランジュ型の場合の証明を行なう。ここで、x 0 < x として、 うえの証明における (A.29) 式の関数 g と t → ( x - t )n+1 に対して、コーシー の平均値の定理を適用する。g ( x ) = 0 より、次式を満たす t ⊆ ( x 0 , x ) が存在する。

      (A.33)

      そこで、

      (A.34)

    1. [(註1)] ラグランジュ型剰余の場合、高木の証明では、コーシーの平均値の定理 (定理10) → ロルの定理(定理8) → 連続関数に関する最大・最小の定理(定理5) → 集積点の定理(定理4)まで、Bridges の証明では、平均値の定理 → コーシーの平均値の定理 (定理10) → ロルの定理(定理8) → 連続関数に関する最大・最小の定理(定理5) → 集積点の定理(定理4)まで必要である。これに対して、Atkinson の証明では、積分平均値の定理 (定理11) → 中間値の定理(定理7)まででよく、簡明な証明で済む。

    2. [(註2)] テイラーの定理で、(1.9) 式の i = 0 と置くと、平均値の定理となる、すなわち、 テイラーの定理は平均値の定理の拡張である。

    演習 1.17(定理13)


       (証明) 
     定理12(テイラーの定理)の証明と同様、g ( x ) は、

    とする。
     今回は、定理12と異なり f ( x ) は n 階まで微分可能なので、コーシーの平均値の定理により、 g ( x ) と h ( x ) = ( x - x 0 )n+1 に対して、

    (A.35)

    そこで、g(n)( x 0 ) = 0 に注意すれば、x → x 0 したがって、 ξ → x 0 のとき、

    (A.36)

    すなわち、

    (A.37)

    つまり、

    (A.38)