2.3節  重相関係数とその検定

重回帰分析における基準変数の全変動 s2y に占める推定値変 動 2 の比は、(2.27) 式から

(2.28)

と書け、 重相関係数の二乗(squared multiple correlation coefficient)と呼 ばれ、SMCと略記する。ここで、

(2.29)

すなわち、

(2.30)

N 2 に等しいことに注意すると、

(2.31)

すなわち、上の重相関係数は、基準変数の実測値と予測値の間の 相関係数にあたることがわかる。

(2.32)

であることは明らかである。

  つぎに、標本重相関係数 R2 から、母重相関係数 R20 の検定を行う 方法について述べる。

  その前に、yBy で表わす行列表現に注意しておこう。付録 5の(7)、(8)式より、

yB = Gy . (2.33)

ここで、

(2.34)

すなわち、行列 G は、

Gt = G , (2.35)
G2 = G , (2.36)

なる性質を持ち、べき等行列の1つである。

  この性質を利用すると、(2.25)式のNs2y は、

Ns2y = ytByB = ytGtGy = ytGtGGY ,
= ytBGyB . (2.37)

とも書ける。同じく付録5の定理等を用いると、rankG = N -1 に注意して、

(2.38)

すなわち、ssy2 は、自由度 N -1 のχ2 -分 布に従うことがわかる。

 一方、s2 については、 (2.26)式の右辺の二次形式の行列 Xm (Xtm Xm ) -1Xtm がやはりべき等行列であること(付録5)および、

rank {Xm (X tmXm ) -1X tm } = m , (2.39)

であることに注意すると、

(2.40)

すなわち、s2 は、自由度 m のχ2 -分布に従う ことがわかる。

  さらに、(2.27)式より、

(2.41)

これにより

(2.42)

  カイ二乗の加法性の性質(問1.1.1の解答、定理3)から、

(2.43)

すなわち、sse2 は、自由度 N -m -1 のχ2 -分布に従うことが わかる。   ここで、(2.24)式より、sse2 の二次形式の行列 IN - Xm (XtmXm ) -1Xtm も、やはりべき等行列であることが容易に証明できる。さらにうえの結果から、

rank { IN - Xm (XtmXm ) -1Xtm } = N -m -1 , (2.44)

であることもわかる。
  これらより、帰無仮説

(2.45)

のもとでは、

(2.46)

は、自由度 ν1 =m , ν2 = N -m -1 の F -分布に従うことがわかる(問1.1.1の 解答の定理1参照)。   (2.46)式の F 比は、ssse の定義から結局、

(2.47)

ここで、(2.27)、(2.28)式に注意すると、

(2.48)
結局、(2.45)式の H0 のもとで(2.48)式の F 比を求め、
(2.49)
であれば、危険率 α で、回帰係数に関する帰無仮説を棄却する。

  このことは、重相関係数に関する帰無仮説 H0 (R0 )

H0 (R0 ) : R0 = 0 , (2.50)

を危険率 α で棄却することに等しい。