2.8.2節  Table 2.3 の筆跡データへの適用例

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 この節は、つぎの3項から成り立っています:

1.筆跡データの永久 SAS ファイル化
2. 筆跡データの重回帰分析及び因子間相関プログラム
3.筆跡データの分析結果とその見方

 この節には、つぎの2つの SAS プログラムのダウンロードコーナーを用意して あります:

1.永久 SAS ファイル用プログラムの例
2.重回帰分析用プログラムの例2

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このページは、令和2年5月7日に一部変更しました。

1) 筆跡データとその永久SASファイル化

  教育や心理の分野で重回帰分析を行う場合、基準変数の値は必ずし も Table 2.2 の卒論の成績のように陽な形で得られているとは限らない。むしろ、 基準変数自身は、多次元的でありかつあらかじめ陽な形では捉えられない場合も 多い。例えば、われわれが筆跡と性格との関係に興味を持ったとしよう。作業仮説 は、性格が筆跡に何らかの影響を及ぼしているという探索的なものであるとする。 この時、われわれは多くの被験者に適当な長さの文章を見せ転記させ、その結果を 複数の評定者に見せて SD 尺度により評定してもらうものとする。一方、被験者 にはさらに性格検査を受けてもらい、それにより各人の性格を診断するものとする。

  Table 2.3 は、藤井 (1983) が収集し た筆跡データの一部である。彼女は性格を INV という類型論にもとずく検査と、特性論にもとずく YG 性格検査の2種類で 診断し、筆跡を28個の7段階 SD 尺度と転記時間から成る29個の尺度でもっ て測定した。各被験者のこれら29尺度の得点には、複数の評定者の平均を充てた:

Table 2.3: A 大学心理学科の50名の筆跡と性格

 11 2 5   11 9 81015          18191617171014 513 6 313                          
 12      4.3 3.0 4.8 3.5 4.3 4.8 5.7 4.3 2.7 5.5 5.5 3.5 6.0 5.2 2.8 4.2 3.2 4.5
 13      5.0 3.8 3.5 3.5 2.7 5.7 3.5 3.7 3.5 4.2 846                            
 1          0.27  1.49 -0.61 -1.48 -0.68            1.74 -0.37          0.89    
 21 5 5    711 6 812          11141615 7 8 7 7 3 4 6 9                          
 22      4.5 3.8 4.5 4.7 4.2 3.5 4.7 3.2 3.7 3.7 3.5 4.5 2.8 4.5 4.2 3.7 3.3 3.7
 23      4.3 4.3 4.7 4.0 4.8 4.8 4.3 3.8 4.2 5.7 530                            
 2         -0.03 -0.68  0.07  0.16  0.98            0.33  1.24          0.31   
               .................................................
               .................................................
               ................................................. 
501 1 6    7 2 2 2 3          1217 9 911 6 9 71712 610                          
502      4.7 4.3 4.3 1.8 1.8 4.7 2.8 4.0 3.7 4.8 4.5 2.5 4.5 2.8 2.2 3.2 3.5 3.0
503      2.2 2.0 4.0 3.0 3.5 3.7 2.7 1.8 4.0 4.8 786                            
50         -1.73  1.32  1.15 -0.50  0.60            0.23 -0.42         -1.69    

  このような結果を手にした時、性格の筆跡に及ぼす影響を検討する1つの方法は、 まず筆跡のデータを分析し、その基本的次元(因子)を明らかにし、得られた筆跡 (の各次元上での各被験者の値)を基準変数とし、性格検査を構成する複数の下位 尺度得点を説明ないし予測変数とする重回帰分析を行うことである。

  このようなデータの場合、筆跡の基本的次元(因子)は陽に与えられたもので はなく、つぎの章で説明する因子分析という方法を経由して間接的にしか与えら れない尺度であることに注意したい。

  いずれにせよ、SAS による分析に先立ち、まず Table 2.3 のデータを永久 SAS ファイルに登録することにしよう。Table 2.3 から明らかなように、このデータは 1人分が4行で合計 200行(50 名分)から成るので、Table 2.2 の場合のようにプロ グラムの中にデータを入れるのではなく、データはあらかじめ適当なファイルに 入力しておき、プログラムの中では単にそれを呼び出すだけで済ませることにする。

*---------------------------------------------------------------------*
|                                                   September 2, 2018 |
|  sas program--perm_Fuj.sas--                                        |
|       a sas program for making a second sas permanent file of Fujii |
|  data.  This data is a part of the Fujii (79p103, Utsumi Fujii).    |
|                                                                     |
|  file name: c:\sasprog\perm_Fuj.sas                                 |
|                                                                     |
*---------------------------------------------------------------------*;
filename data "/folders/myfolders/data/p79103uf.txt";
libname sasfile "/folders/myfolders/permfile";
data sasfile.Fujiiraw;
  infile data;
  input ssno 2. +8 (inv1-inv5) (2.) +10 (yg1-yg12) (2.)
        / +8 (img1-img18) (+1 3.1) / +8 (img19-img28) (+1 3.1)
          +1 img29 3. / ;
  label ssno='sample no'
        yg1='depression'
        yg2='cyclic tendency'
        yg3='infereiority complex'
        yg4='neurosis'
        yg5='objectivity'
        yg6='cooperativeness'
        yg7='aggressiveness'
        yg8='general activity'
        yg9='rhathymia'
        yg10='thinking extroversion'
        yg11='ascendance'
        yg12='social extroversion'
        img1-img29='sd-scale for the image of holographs';
run;
options pagesize=66;
proc print data=sasfile.Fujiiraw n;
 title 'proc print out for the sas Fujii raw data';
run;
  

--- 筆跡データの永久SASファイル化のためのSASプログラム ---

プログラムのダウンロード・コーナー

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perm_Fuj.sas
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  第1行の filename 文は、Table 2.3 のデータが、ユーザのホームディレクトリの 下の p79103uf.txt なる名前をつけたファイルに保存されており、それをファイル参照名 data で略すことを宣言している。

  第2行の libname 文は、省略する。

  第4行の infile 文は、参照名 data なるファイル、すなわち第1行で指定した ファイルを読みだすことを指示している。

  第5行の input 文は、Table 2.3 のデータのうち、当面の解析に必要なもの だけの変数名とそれらの書式を指定したものである。文中の「/」は、行換えを 指示している。一人文のデータは、多くの場合このように複数行から成るので、 この記号が必要となることが多いであろう。

  つぎの label 文であるが、その中の最後の定義はたくさんの変数に単一の ラベルをつけて省略するやり方である。ただし、このように省略すると、最後の 変数(この場合、img29)のみに変数ラベルがつけられ、残りの変数にはラベルが つかないので注意されたい。また、inv1 から inv5 については、ラベル を定義していないことに注意したい。このように、定義を省略することもできる。

  最後の3行の print 文については、既に説明したので省略する。

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     2)筆跡データの重回帰分析及び因子間相関プログラム

  つぎのプログラムは、Table 2.3 の筆跡データの重回帰分析及び筆跡の因子と YG 性格の因子間の相関係数を計算し検定するためのものである。

*---------------------------------------------------------------------*
|                                                       April 6, 2005 |
|  sas program--mreg_ex2.sas--                                        |
|       example 2 of sas programs for multiple regression.            |
|                                                                     |
|  file name: c:\sasprog\mreg_ex2.sas                                 |
|                                                                     |
*---------------------------------------------------------------------*;
libname sasfile 'c:\permfile';
options pagesize=60;
  title 'principal FA for the holograph data';
proc factor data=sasfile.Fujiiraw
  /* method options */ method=p priors=max n=5 rotate=v
  /* output options */ score outstat=factout;
  var img1-img29;
run;
proc score data=sasfile.Fujiiraw score=factout out=scores;
run;
  title 'multiple regressions for the Fujii data';
proc reg data=scores simple corr;
  model factor1-factor5=inv1-inv5 yg1-yg12;
run;
data factran1;
  set scores;
  array imgf{5};
  array imgfact{5} factor1-factor5;
    do j=1 to 5;
      imgf{j}=imgfact{j};
    end;
  drop yg1-yg12 img1-img29;
  output;
run;
  title 'principal FA for the YG data';
proc factor data=sasfile.Fujiiraw
   method=p priors=max n=2 rotate=v
   score outstat=factout;
  var yg1-yg12;
run;
proc score data=sasfile.Fujiiraw score=factout out=scores;
run;
data factran2;
  set scores;
  rename factor1=ygf1 factor2=ygf2;
  drop yg1-yg12 img1-img29;
  output;
run;
data allfact;
  merge factran1 factran2;
run;
proc corr data=allfact;
  var imgf1-imgf5 ygf1-ygf2;
run;
quit;

--- 筆跡データの重回帰分析及び因子間相関計算のための SAS プログラム ---

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  上のプログラムでは、筆跡や YG 性格検査の因子の数は、あらかじめ行った 因子分析により、それぞれ 5、2 と確定していることを仮定している。因子分析 の詳細については、第3章を参照のこと。

  また、このプログラムでは、筆跡の各因子の因子得点(個人差得点)を基準 変数とし2種類の性格検査の得点を説明ないし予測変数とする重回帰分析だけで はなく、筆跡の因子と YG 性格検査の因子との間の(単)相関係数とその検定結果 もみれるようにしてある。

  一方、Table 2.2 の卒論データの場合のような、多変量解析に先立つ基礎集計 は、出力しない。これについては、必要に応じてユーザが加えるとよい。

  第4行からの factor プロシジャは、筆跡の29項目への5名の評定者の評定 の平均値を各被験者の筆跡得点としたものに対して、5因子解を指定したもので ある。プロシジャ中、方法のオプションで主因子解 (method=p)、共通性の初期値 として相関行列の各行または列の要素の絶対値最大なもの(の絶対 値)(priors=max)、因子数は5 (n=5)、及び因子軸の回転方法としてバリマックス 回転 (rotate=v) を指定した。このプロシジャではさらに score オプションで、 各被験者の因子得点計算のための情報を factout なる一時ファイルに出力させ ている。

  つぎの score プロシジャは、factor プロシジャの score オプションで出力 されたファイル及びもとのデータ(永久 SAS ファイル, sasfile.Fujiiraw)を 呼び出して、各被験者の因子得点を計算し、一時ファイル scores に出力させる ためのものである。この時、一時ファイル scores には、各被験者の因子得点 だけでなく、もとのデータも保存される。

  このようにして一旦保存した因子得点と、もとの変数の値を使い、筆跡の各因子 を基準変数とし、2種類の性格検査の得点を説明ないし予測変数とする重回帰分析 を実行させるためのプログラムが、つぎの reg プロシジャである。変数数が多い ので、corr オプションは削った方が出力が少なくて済む。

  つぎの data 文では、一時ファイル scores に保存されている筆跡の因子得点 を呼び出し、factor1 から factor5 までの因子得点を新たな imgfact1 から imgfact5 なる変数に名前の変更を行う。この SAS プログラムが面倒なユーザは、 これを

  data factran1;
    set scores;
    rename factor1=imgf1 factor2=imgf2 factor3=imgf3
           factor4=imgf4 factor5=imgf5;
    drop yg1-yp12 img1-img29;
    output;
  run;
  

と書いてもよい。なぜ、このようなことを行うかというと、SAS の因子分析プロ グラムでは、因子名はこちらがあらかじめ指定することができず、今回のように 2種類の因子分析を行い因子間の相関を見たいような場合には、因子名の重複を 避けるために、それぞれの因子分析により SAS により自動的に命名される factor1、 factor2、などを両者で区別する必要があるからである。また、このように改名 された5因子の因子得点を、data 文のすぐ右のファイル名 factran1 と指定する ことにより、そこに一時的に保存させることができる。

  つぎの factor プロシジャは、YG 性格検査の得点の因子分析を指示するもので ある。その後の score プロシジャは、先ほどと同様、直前の因子分析結果から因子 得点計算のための情報を factout なる一時ファイルから受け取り、因子得点を 計算し、やはり一時ファイル scores に保存するためのものである。

  つぎの data 文は、直前の一時ファイル scores を set 文で受け取 り、rename 文で性格検査の2因子の名前を、 factor1、factor2 から ygf1、及 び ygf2 へと変更するためのものである。この変更結果は、一時ファイ ル factran2 に保存される。

  つぎの date 文では、2つの一時ファイル factran1 と factran2 を変数方向 に結合させるためのもので、merge 文を用いている。また、結合した結果をフィアル allfact なる一時ファイルに保存することをも指示している。

  最後の corr プロシジャは、因子得点間の相関係数とその検定を行うためのも のである。

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   3) 筆跡データの分析結果とその見方

  上述の一連のプログラムを実行させると、つぎのような結果が得られる。因子 分析の結果の説明の詳細は、ここでの主目的ではないので、因子の解釈に必要な 因子パターン(因子負荷行列)のみ示すことにする。詳細は、第3章を参照のこと:

  1. 筆跡データの因子分析結果
    1. 共通性の事前初期推定値 (Prior Communality Estimates)
    2. 縮退相関行列の固有値とその% (Eigenvalues of the Reduced correlation matrix)
    3. 初期因子法:主因子 (Initial Factor Method: Principal Factors)
    4. 回転法:バリマックス (Rotation Method: Varimax)

        ここでは、前項で出力される回転前の因子パターンに対する直交回転行列 の出力に続いて、バリマックス回転後の因子パターンがつぎのように出力され る。ここで、右側の各項目のラベルは、プログラムで省略しており、本来 ならば出力されないものを、後で編集の際に加えたものである。上述の SAS の label 文の引用符の中に日本語で指定すれば、出力結果にも自動的にプリント される:

                                 Rotated Factor Pattern                           
                                                                                  
                     FACTOR1   FACTOR2                                            
                                                                                  
          IMG1       0.07387   0.03172   右上がりー右下がり
          IMG2       0.66091   0.15353   間隔が広いー間隔が狭い
          IMG3      -0.02623  -0.01931   縦長ー横長
          IMG4       0.87447  -0.21176   きれいなーきたない
          IMG5       0.92396  -0.16159   ていねいなー雑な
          IMG6       0.24834   0.80103   大きいー小さい
          IMG7       0.63210   0.18383   行がまっすぐー行が曲がっている
          IMG8      -0.26440   0.32200   硬いーやわらかい
          IMG9       0.41911   0.07685   鋭いー鈍い
          IMG10     -0.05924   0.86257   線が太いー線が細かい
          IMG11      0.07326   0.90470   強いー弱い
          IMG12      0.77457   0.05727   しまりがあるーしまりがない
          IMG13     -0.00533   0.88305   重いー軽い
          IMG14      0.82011   0.28923   くっきりしたーあいまいな
          IMG15      0.90234  -0.04711   字形が整っているー字形が整っていない
          IMG16      0.61529   0.59588   豊かなー貧弱な
          IMG17      0.12159   0.40607   抑揚があるー抑揚がない
          IMG18      0.68213   0.10128   行間隔が均一ー行間隔が均一でない
          IMG19      0.81767   0.06467   留め払いがきちんとしているーしていない
          IMG20      0.92424   0.06793   よいー悪い
          IMG21      0.40339  -0.07762   なめらかなーこつこつした
          IMG22     -0.04470   0.09581   角ばったー丸っこい
          IMG23     -0.62168  -0.12372   文の始めと終わりで字が変るー変らない
          IMG24      0.77130  -0.03025   筆圧が一定ー筆圧が一定でない
          IMG25      0.80739  -0.31462   かわいいーにくらしい
          IMG26      0.92254   0.05104   読みやすいー読みにくい
          IMG27     -0.76764  -0.25338   まっすぐなーのびのびとした
          IMG28     -0.11781   0.44347   漢字が大きいー漢字が小さい
          IMG29      0.19794   0.25147   (転記時間が)速いー遅い
          

      --- 筆跡29項目のバリマックス回転後の因子パターンの一部 (1)---

        上の結果から、各因子に負荷の高い(因子負荷量の絶対値が相対的に大きい) 項目を因子ごとに見てみると、第1因子は、項目20、5、26、15などに 高い負荷を示しており、筆跡の評価因子と命名できよう。また、第2因子は、 項目11、13、10、6などに高い負荷をしており、筆跡の力強さの因子 と命名する。

                                 Rotated Factor Pattern                           
                                                                                  
                     FACTOR3   FACTOR4                                            
                                                                                  
          IMG1       0.11736   0.60055                                            
          IMG2      -0.24802  -0.15355                                            
          IMG3       0.09158   0.19064                                            
          IMG4      -0.25093   0.13866                                            
          IMG5       0.09301  -0.02197                                            
          IMG6      -0.12458  -0.10913                                            
          IMG7       0.02060   0.09965                                            
          IMG8       0.80872  -0.02304                                            
          IMG9      -0.06588   0.76572                                            
          IMG10      0.22004  -0.06334                                            
          IMG11      0.17117   0.24962                                            
          IMG12      0.06359   0.52943                                            
          IMG13      0.26022   0.14991                                            
          IMG14      0.21018   0.16121                                            
          IMG15     -0.15187   0.27829                                            
          IMG16     -0.11786   0.32776                                            
          IMG17     -0.19275   0.68009                                            
          IMG18     -0.13925   0.07151                                            
          IMG19      0.26519   0.03561                                            
          IMG20     -0.16874   0.19452                                            
          IMG21     -0.73312   0.23508                                            
          IMG22      0.86055   0.03899                                            
          IMG23      0.22946  -0.28392                                            
          IMG24     -0.23189  -0.08006                                            
          IMG25     -0.29447   0.04178                                            
          IMG26     -0.22732   0.01924                                            
          IMG27      0.33251   0.10116                                            
          IMG28     -0.02826   0.13350                                            
          IMG29      0.16529  -0.19222    sd-scale for the image of holographs    
          

      --- 筆跡29項目のバリマックス回転後の因子パターンの一部 (2)---

        上の結果から、第3因子は項目22、8、21などに高い負荷を示しており、 筆跡の滑らかさの因子と命名する。同様に、第4因子は項目9、17、1などに 高い負荷をしており、筆跡のアクセント因子と命名する。

        第5因子については、負荷の高い項目が1つしかないので、因子の命名を 行わないことにする。

                           Variance explained by each factor                      
                                                                                  
                      FACTOR1   FACTOR2   FACTOR3   FACTOR4   FACTOR5             
                    10.536688  4.308508  2.877067  2.346604  1.189428             
      	      

      つぎに、うえのような因子寄与が出力される。この値は、回転後の各因子の 因子負荷量の二乗和であり、共通因子空間での因子の寄与の大きさを表す。

                     Final Communality Estimates: Total = 21.258295               
                                                                                  
                    IMG1      IMG2      IMG3      IMG4      IMG5      IMG6        
                0.546177  0.787869  0.430230  0.894857  0.889444  0.807736        
                                                                                  
                    IMG7      IMG8      IMG9     IMG10     IMG11     IMG12        
                0.445411  0.829750  0.789346  0.819362  0.922404  0.887969        
                                                                                  
                   IMG13     IMG14     IMG15     IMG16     IMG17     IMG18        
                0.889888  0.828789  0.918472  0.862523  0.679742  0.500188        
                                                                                  
                   IMG19     IMG20     IMG21     IMG22     IMG23     IMG24        
                0.777671  0.925563  0.801782  0.786993  0.540496  0.656004        
                                                                                  
                   IMG25     IMG26     IMG27     IMG28     IMG29                  
                0.858305  0.905765  0.839860  0.268353  0.167344                  
      	  

      --- 筆跡29項目の最終的な共通性の推定値 ---

        つぎに、各項目の最終的な共通性の推定値がうえのような形で出力される。 共通性は、各項目の共通因子空間内での寄与の大きさを表す。

    5. 回帰推定法によるスコア係数 (Scoring Coefficients Estimated by Regression)
  2. 重回帰分析結果
    1. 記述統計結果 (Descriptive Statistics)
    2. 変数相互の相関 (Correlation)
    3. 重相関係数の統計的有意性の分散分析結果

        つぎに、筆跡の各因子を基準変数とし、2種類の性格検査の下位尺度を説明 変数とする重回帰分析における重相関係数の統計的有意性の検定結果が分散 分析の形で出力される。既述のプログラムでは、基準変数を同時に複数個指定 しているので、SAS は、それらの1つ1つについて重回帰分析を行い、順に 結果を出力する。

        したがって、つぎに出力されている最初の重回帰分析結果は、基準変数を 筆跡の第1因子とし、説明ないし予測変数を2種類の性格検査の下位尺度と した場合のものである。

      Model: MODEL1            
      Dependent Variable: FACTOR1
                                
                                  Analysis of Variance 
                                                                
                                  Sum of         Mean          
         Source          DF      Squares       Square    F Value     Prob>F
                                                                          
         Model           17     17.07518      1.00442      1.035     0.4509
         Error           32     31.06055      0.97064                     
         C Total         49     48.13573                                 
                                                                        
             Root MSE       0.98521     R-square       0.3547          
             Dep Mean       0.00000     Adj R-sq       0.0119         
             C.V.      4.4369992E18                                  
             

      --- 筆跡の第1因子についての重回帰分析における重相関係数の検定結果 ---

       上の結果の見方については、既にTable2.2の卒論データのところで説明して あるのでここでは省略し、結果についてのみ述べる。上の結果から、Prob $>$ F の 値が 0.4509 と大きい(5%水準、すなわち統計的に有意という時の通常の限界 値 0.05 より大きな値)ので、筆跡の第1因子 (FACTOR1) すなわち、筆跡の評価 因子(筆跡のよしあしのレベル)は、INV や YG 性格検査によっては説明ないし 予測できないという結論に達する。

        この例のように、重相関係数が有意でないときは、どの説明変数が基準変数に 効いているかという議論は意味を成さないので、つぎに出力される偏回帰係数の 検定結果は無視する必要がある。したがってここでは、この結果は省略する。

        基準変数が第2因子の場合も上と同様に見てみると、第1因子と同様、重相関係 数は統計的に有意でなかった(F(17, 32)=0.734)。そこで、これについての結果も ここでは省略する。

        つぎの結果は、筆跡の第3因子を基準変数とした場合の重相関係数の検定結果 である。

      Dependent Variable: FACTOR3                        
                                                        
                                  Analysis of Variance 
                                                      
                                  Sum of         Mean
         Source          DF      Squares       Square     F Value     Prob>F
                                                       
         Model           17     22.05124      1.29713       1.800     0.0740
         Error           32     23.05723      0.72054                     
         C Total         49     45.10846                                 
                                                                        
             Root MSE       0.84885     R-square       0.4888          
             Dep Mean       0.00000     Adj R-sq       0.2173         
             C.V.      2.9866088E17                                  
             

      --- 筆跡の第3因子についての重回帰分析における重相関係数の検定結果 ---

        上の結果からは、Prob $>$ F=0.0740 と、5%水準には満たないが、基準変数と 説明ないし予測変数の間には傾向程度の関係があるといえる。そこで、つぎに出力 される偏回帰係数の検定結果を見て、どの変数が基準変数である筆跡の滑らかさ の因子(筆跡の滑らかさのレベル)に効いているのかを検討することにする。

                                  Parameter Estimates           
                                                               
                           Parameter      Standard    T for H0:
          Variable  DF      Estimate         Error   Parameter=0  Prob > |T|    
                                                                            
          INTERCEP   1      1.480802    1.23177847      1.202        0.2381
          INV1       1      0.050274    0.05892222      0.853        0.3999 
          INV2       1     -0.123026    0.04818925     -2.553        0.0157
          INV3       1     -0.094140    0.06554161     -1.436        0.1606 
          INV4       1      0.024011    0.06054456      0.397        0.6943
          INV5       1      0.093944    0.05422526      1.732        0.0928
          YG1        1      0.000485    0.04094124      0.012        0.9906
          YG2        1     -0.098231    0.05144064     -1.910        0.0652
          YG3        1      0.004801    0.04111924      0.117        0.9078
          YG4        1      0.041149    0.05834989      0.705        0.4858
          YG5        1      0.028614    0.04803101      0.596        0.5555
          YG6        1      0.024462    0.05260075      0.465        0.6450
          YG7        1     -0.000367    0.03940389     -0.009        0.9926
          YG8        1      0.073315    0.04308059      1.702        0.0985
          YG9        1     -0.022794    0.04349857     -0.524        0.6039
          YG10       1     -0.041593    0.04472168     -0.930        0.3593
          YG11       1      0.011826    0.05054101      0.234        0.8165
          YG12       1     -0.107863    0.05273356     -2.045        0.0491
                                                       
                        Variable                      
          Variable  DF     Label                     
                                                    
          INTERCEP   1  Intercept                  
          INV1       1  循環性
          INV2       1  粘着性
          INV3       1  分裂性
          INV4       1  ヒステリー
          INV5       1  神経質
          YG1        1  depression                                                
          YG2        1  cyclic tendency                                           
          YG3        1  infereiority complex                                      
          YG4        1  nervousness
          YG5        1  objectivity                                               
          YG6        1  cooperativeness                                           
          YG7        1  aggressiveness                                            
          YG8        1  general activity                                          
          YG9        1  rhathymia                                                 
          YG10       1  thinking extroversion
          YG11       1  ascendance
          YG12       1  social extroversion
          

      --- 筆跡の第3因子についての重回帰分析における偏回帰係数の検定結果 ---

        上の結果の Prob $> \mid T \mid$ の値の小さいもの(できれば 0.05 以下のもの) を探すと、INV2 のそれが 0.0157、YG12 のそれが 0.0491、YG2 のそれが 0.0652、 INV5 のそれが 0.0928 となっている。したがって、偏回帰係数は、INV2 及び YG12 が5%水準で統計的に有意、また YG2 及び INV5 が傾向程度で(基準変数と)関連 がある、といえる。

        それでは、筆跡の第3因子である筆跡の滑らかさのレベルとこれらの性格の間には 具体的にどのような関係があるといえるのであろうか。このことを明らかにするため には、あらかじめ、以下のような幾つかの点に注意する必要がある。

        まず第一に、因子得点(因子上のいわば個人差得点)の正負の方向性を明らかに しておく必要がある。そのためには、上述の因子分析により得られた因子パターン を各因子ごとに見て行き、当該因子との因子負荷量の値の絶対値が最大のものに対応 する変数をみつけるとよい。第3因子の場合、それは IMG22 すなわち SD 尺度「角 ばったー丸っこい」であり、因子負荷量は 0.86055 である。上述のような直交因子 の場合、因子負荷量は因子と各変数の間の相関係数に等しいので、この符号ともと の変数の得点との関係から、因子(得点)の正負を調べることができるのである。

        ところで、この調査での SD 尺度は7段階評定尺度で、各両極性尺度とも尺度の 左側の評定尺度カテゴリー(非常に)から順に右方向に7点、6点、$\cdots$ 、1 点と得点化した。したがって、第3因子と相関の最も高い変数「角ばったー丸っこ い」との相関係数 0.86055 は、第3因子の正方向が(筆跡が)「滑らかでない」こ とを、逆に第3因子の負の方向が「滑らかである」ことを意味する。

        第二に、第3因子に効いている変数の得点の高低のもつ意味を明らかにしておく 必要がある。まず、INV の下位尺度については、すべて得点が高い程当該特性を 被験者は多く持っていることを意味する。つぎに、YG の下位尺度については、筆跡 の第3因子に効いているとみなされた YG2 と YG12 についてのみ見てみると、YG2 は、「気分の変化」(cyclic tendency) を測る尺度であり、得点が高い程被験者は 気分の変化が大きいことを意味する。また、YG12 は、「社会的外向性」(social extroversion) の尺度であり、得点が高い程被験者は社会的に外向的であることを 意味する。

        第三に、うえの出力結果に Parameter Estimate として印刷されている偏回帰 係数の符号は、偏相関係数のそれと同一であるということである。

        これら3点を踏まえると、偏回帰係数が統計的に有意な2尺度、INV2 と YG12、 及び傾向程度の関連のある2尺度 YG2 と INV5 のそれぞれと筆跡の第3因子との 関係は、つぎのようであるといえる。

        まず、INV2 と筆跡の第3因子、すなわち筆跡の滑らかさのレベルとの関係は、 上の表における偏回帰係数が -0.123026 となっておりその符号が負、すなわち偏 相関係数が負であるので、粘着性格の被験者すなわち物事に執着したり、根気強く、 融通が効かないタイプの者は、そうでない者に比べてより滑らかな筆跡を示すと いえる。また、YG12 については偏回帰係数が -0.107863 とやはり負になっており、 社会的に外向的な者のほうが、そうでないものに比べてより滑らかな筆跡を示す、 といえる。

        一方、YG2 の偏回帰係数が -0.098231 とやはり負なので、気分の変化が大きい 者程、そうでない者に比べて、より滑らかな字を書く傾向がある、といえる。また、 INV5 の偏回帰係数は 0.093944 と正なので、神経質な性格の者程、そうでない者 に比べて滑らかでない字を書く傾向があるといえる。

        第4因子を基準変数にした場合の重相関係数も、検定結果を見ると統計的に 有意ではなかったので、ここでは省略する。第5因子の場合は、重相関係数は 傾向程度の関連性を示したが、基準変数としてのこの因子の解釈がむずかしかった ので、考察の対象から外すことにする。

  3. YG 性格検査の因子分析結果

      つぎの出力結果は、YG 性格検査の因子分析結果を示す。ここでも、出力のうち、 最初の2項目、すなわち共通性の初期推定値、縮退相関行列の固有値やそのパ ーセント、回転前の因子パターン、最終的な共通性の推定値、直交回転行列につい ては省略し、回転後の因子パターンをつぎに示す。

                               Rotated Factor Pattern                           
                                                                                
                    FACTOR1   FACTOR2                                           
                                                                                
         YG1        0.75952  -0.22096    depression                             
         YG2        0.77913  -0.07544    cyclic tendency                        
         YG3        0.59895  -0.53962    infereiority complex                   
         YG4        0.78659  -0.37213    neurosis                               
         YG5        0.75912  -0.14434    objectivity                            
         YG6        0.62930   0.07055    cooperativeness                        
         YG7        0.34680   0.36703    aggressiveness                         
         YG8       -0.28473   0.67426    general activity                       
         YG9        0.07831   0.47869    rhathymia                              
         YG10      -0.57557   0.15191    thinking extroversion                  
         YG11      -0.31029   0.79626    ascendance                             
         YG12      -0.25876   0.77030    social extroversion
         

    --- YG 性格検査の主因子解、バリマックス回転後の因子パターン ---

      つぎに、2因子の因子寄与と最終的な各変数の共通性の推定値が出力される:

                         Variance explained by each factor                      
                                                                                
                                   FACTOR1   FACTOR2                            
                                  3.835637  2.578949                            
                                                                                
                                                                                
                   Final Communality Estimates: Total = 6.414586                
                                                                                
                   YG1       YG2       YG3       YG4       YG5       YG6        
              0.625692  0.612730  0.649924  0.757202  0.597094  0.401001        
                                                                                
                   YG7       YG8       YG9      YG10      YG11      YG12        
              0.254985  0.535702  0.235279  0.354353  0.730312  0.660312        
    	  

    --- YG 性格検査の2因子の因子寄与 ---

      最後の、因子得点計算のための係数は省略する。

  4. 筆跡の5因子と YG 性格検査の2因子との相関関係

      最後に、筆跡の5因子と YG 性格検査の2因子との相関関係が corr プロシジャ により出力される。これら7変数の相関行列とその検定結果が表示される前に、 各変数の平均や標準偏差の情報がつぎのように出力される。これらの変数は、 すべて因子得点であるので、平均はゼロ、標準偏差はほぼ1になっていること に注意せよ。

                                Correlation Analysis                            
                                                                                
       7 'VAR' Variables:  IMGF1    IMGF2    IMGF3    IMGF4    IMGF5    YGF1    
                           YGF2                                                 
                                                                                
                                                                                
                                 Simple Statistics                              
                                                                                
     Variable          N       Mean    Std Dev        Sum    Minimum    Maximum 
                                                                                
     IMGF1            50          0     0.9911          0    -1.9284     1.8115 
     IMGF2            50          0     0.9893          0    -2.2734     1.6645 
     IMGF3            50          0     0.9595          0    -2.1204     1.6482 
     IMGF4            50          0     0.9491          0    -2.2200     2.0895 
     IMGF5            50          0     0.9166          0    -1.9547     1.7855 
     YGF1             50          0     0.9430          0    -2.1298     1.7961 
     YGF2             50          0     0.9237          0    -1.4853     2.0039 
     

    --- 筆跡の5因子と YG 性格検査の 2因子の各々の平均と標準偏差等 ---

      最後に、つぎのような7変数(7因子)間の相関行列とその検定結果が出力 される:

      Pearson Correlation Coefficients / Prob > |R| under Ho: Rho=0 / N = 50    
                                                                                
              IMGF1     IMGF2     IMGF3     IMGF4     IMGF5      YGF1      YGF2 
                                                                                
    IMGF1   1.00000   0.00557  -0.01677   0.01952   0.00699  -0.01233   0.06680 
             0.0       0.9694    0.9080    0.8930    0.9616    0.9323    0.6448 
                                                                                
    IMGF2   0.00557   1.00000   0.01404   0.01047  -0.00149  -0.10228   0.03671 
             0.9694    0.0       0.9229    0.9425    0.9918    0.4797    0.8002 
                                                                                
    IMGF3  -0.01677   0.01404   1.00000   0.00693  -0.00152  -0.03065  -0.31657 
             0.9080    0.9229    0.0       0.9619    0.9916    0.8327    0.0251 
                                                                                
    IMGF4   0.01952   0.01047   0.00693   1.00000  -0.00624  -0.04897   0.22682 
             0.8930    0.9425    0.9619    0.0       0.9657    0.7356    0.1132 
                                                                                
    IMGF5   0.00699  -0.00149  -0.00152  -0.00624   1.00000  -0.24223  -0.20638 
             0.9616    0.9918    0.9916    0.9657    0.0       0.0901    0.1504 
                                                                                
    YGF1   -0.01233  -0.10228  -0.03065  -0.04897  -0.24223   1.00000  -0.07075 
             0.9323    0.4797    0.8327    0.7356    0.0901    0.0       0.6254 
                                                                                
    YGF2    0.06680   0.03671  -0.31657   0.22682  -0.20638  -0.07075   1.00000 
             0.6448    0.8002    0.0251    0.1132    0.1504    0.6254    0.0    
    	 

    --- 筆跡の5因子と YG 性格検査の 2因子相互の相関行列と相関係数の検定 結果 ---

      この表のうち、筆跡の因子間、及び YG 性格検査の因子間の相関係数はすべて ほぼゼロで、統計的にも有意でないことは明らかである。この結果は、この場合 直交因子を仮定しているので、このようになって当り前である。問題は、2種類の 因子間の相関関係である。これらについて見てみると、YGF2 すなわち YG の第2 因子と IMGF3 すなわち 筆跡の第3因子との間のみが、統計的に5%水準で有意 となっている。

      YG の第2因子は、活動性の高さを表し得点が高い程、被験者の活動性が高いこと を意味する。また、筆跡の第3因子は筆跡の滑らかさのレベルを表し、得点が高い ほど被験者は滑らかでない字を書く。その結果、両者の間の有意な負の相関から、 活動性の高い者程、そうでない者に比べて滑らかな字を書くことがわかる。

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