3.1.3節 共通性

  (3.1)式の多因子模型から明らかなように、因子分析では、各変数の分散((3.1) 式では、これは1に基準化されている)、共通因子によるものと独自因子による ものから成り立つ。

  具体的には、(3.1)式の行列表現(3.2)式と、その仮定についての(3.4)~(3.6) 式を用いると、つぎのように簡単に表現できる。すなわち、

(3.9)

  もし、共通因子相互が直交すれば、

(3.10)

なので、この時は、

R = AA t + BB t . (3.11)

  (3.11)式の第 jj 列は、第 j 変数相互の相関係数を表わすので、1であるが、 これは、第 j 変数の分散でもある。このことに注意すれば、

s 2 j = 1 = h 2 j + b 2 j . (3.12)

  ここで、

h 2 j = a 2 j 1 + a 2 j 2 + ... + a 2 j r . (3.13)

  この h 2 j は、第 j 変数の 共通性(communality)と呼ばれ、第 j 変数の 分散に占める共通因子の寄与を表わす。

  これに対して、b 2 j独自性( uniqueness)と呼ばれ、同じく独自因子の寄与を表わす。

  (3.1)式から明らかなように、模型の右辺はすべて未知なので、われわれは観測 されたデータから因子数 r のみならず、共通性(あるいは独自性)なども推定し なければならない。

  まず、共通性の下限および上限については、つぎの結果が知られている。ここで、 R 2 j は、第 j 変数をそれ以外の m -1変数で説明したときの 重相関係数 (multiple correlation coefficient)の二乗であり、r j j は第 j 変数の 信頼性(reliability)である。

(3.14)

  すなわち、共通性( h 2 j )は、(第 j 変数の)信頼性( r j j )を上廻る ことはなく、 SMC(Squared multiple correlation coefficient)を下廻ること もない。

  前者すなわち上限については、(3.1)式の独自性の部分をさらに特殊因子( specific factor)と誤差因子(error factor)に分解し、誤差分散と信頼性との 間の関係( e 2 j = 1 - r j j )に注意すれば容易に証明できる。後者すなわち 下限については、Dwyer(1939)の証明がある。

  つぎに、観測データから共通性を推定するための方法として従来からよく知られた ものを列挙すると、

(1) 相関行列の第 j 列(あるいは j 行)の要素の絶対値 最大のものを、h 2 j の推定値とする。
(2) SMC( R 2 j )を h 2 j の推定値とする。
(3) 反復近似(iterative approximation)による方法。

  これらのうち、(1) の方法はThurstone派により用いられたもので、最も簡単な ものであるが、変数数が小さいと、良い推定値を与えないといわれる。