3.2節 記述統計的各種因子解

3.2.1節 主因子解とバリマックス回転

  従来からよく用いられる多因子模型の解法は、主因子法による主因子解( principal-factor solution)である。主因子法は、因子寄与 V p が、つぎの 条件下で最大になるように因子パターン A を決定する方法である:

r * j k = a j 1 a k 1 + a j 2 a k 2 + ... + a j r a k r ( j = 1, 2, ... , m ; k = 1, 2, ... , m ) . (3.18)

行列表現では、

(3.19)

 主因子解は、結局つぎの 固有値問題(eigenvalue problem)を解くことに よって得られる。

(3.20)

 ここで、 固有値(eigenvalue)λp に対する 固有ベクトル (eigenvector) a p は、つぎのように長さを定めるものとする。

(3.21)

すなわち、主因子解における固有値の値は、各々の因子の因子寄与になるように してあるので、因子数の推定のための1つのめやすとなる。通常、固有値は大きい 順に計算し、それが1前後で急に小さくなる手前までを推定因子数とする。この 点についてのより詳細な議論については、後の 3.4.1 節で SAS による因子分析 の適用例を示しながら行うので参照されたい。

 主因子解は、因子寄与が、与えられた縮退相関行列 R * のもとで最大なも のから幾つかを選ぶもので、得られた因子パターン A は、この意味では一意 的(unique)である。

 一方、心理学者は、従来から得られた因子パターンの各々の因子の解釈に際して の、各因子の 心理学的有意味性(psychological meaningfulness)を問題とし てきた。

 というのは、一般に何らかの方法で1つの因子パターン(直交解)が得られたと する。すなわち

R * = R - BB t = AA t . (3.22)

 この時、われわれは A を用いて各変数を r 次元直交座標系の中の1 点として表わすとすれば、座標系の直交回転

(3.23)

のための直交変換行列(orthogonal transformation matrix)U を任意に 選んで、

R * = CC t , (3.24)

とすることができる。 簡単に言えば、座標軸の任意の直交回転に対して、点間の構造―すなわち R * で表わされる変数相互の相関関係―は不変なのである。このことは、因子の非決定性 (indeterminacy)の問題として知られている。

 そのために、われわれは、何らかの方法で手にした因子負荷行列すなわち因子パター ンを r 次元の座標値とみて、何らかの基準を用いて座標回転を行い、因子の心理学的 有意味性を追求することになる。

 そのための1つの基準を提唱したのがサーストン(Thurstone,L.L., 1947)で、 サーストンの単純構造の原理(Thurstone's principles of simple structure) と呼ばれる。原理は5つの基準から成り立っている。

 サーストンの原理を目指した回転基準の中で、最もよく使われているのが、カイ ザー(Kaiser,H.F, 1958)による バリマックス法(the varimax method)である。

 バリマックス法において最大化されるべき関数は (正規)バリマックス基準 (normal varimax criterion)と呼ばれ、つぎの式で定義される。

(3.25)

 ここで、 c j p は、第 j 変数の第 p 因子に対する因子負荷量である。

 この式から、バリマックス回転は、共通性 h 2 j で基準化された因子負荷量の 二乗の分散(variance)を最大(maxmize)化するような回転であることがわかる。

補足 YG 性格検査データ(藤井データ)による因子分析結果の出力例

 最後に、YG 性格検査データ(藤井データの一部)を用いた、因子分析の一連の手順により出力される主要な SAS による情報をまとめると、つぎのようである:

(1) 12尺度間(縮退)相関行列の固有値

 最初、12尺度間の相関行列を計算し、共通性の項の最後で述べた3つの方法のうちの1つの方法 (ここでは、それらのうちの (1) の方法、すなわち相関行列の各列の絶対値最大なもの(の絶対値)を 相関行列の対応する対角要素とする方法)により、共通性の初期推定を求め、相関行列の対角要素とした。 これが、主因子解とバリマックス回転の項で述べた縮退相関行列である。つぎの出力は、そのすべての 固有値をリストした SAS の出力結果である。

             Eigenvalues of the Reduced Correlation Matrix: Total = 7.12598836  Average = 0.59383236

                                  Eigenvalue    Difference    Proportion    Cumulative

                             1    4.80478315    3.19498018        0.6743        0.6743
                             2    1.60980298    0.89550601        0.2259        0.9002
                             3    0.71429696    0.47712223        0.1002        1.0004
                             4    0.23717473    0.07489073        0.0333        1.0337
                             5    0.16228400    0.07415303        0.0228        1.0565
                             6    0.08813097    0.03802531        0.0124        1.0688
                             7    0.05010566    0.06556896        0.0070        1.0759
                             8    -.01546329    0.03201960       -0.0022        1.0737
                             9    -.04748289    0.05415711       -0.0067        1.0670
                            10    -.10164000    0.06577734       -0.0143        1.0528
                            11    -.16741734    0.04116925       -0.0235        1.0293
                            12    -.20858658                     -0.0293        1.0000

                              2 factors will be retained by the NFACTOR criterion.

 うえの固有値の値から、正確には1以上の固有値の数から、YG 性格検査の12尺度はおよそ2つの共 通因子で説明できることがわかる。これより、つぎの主因子法による主因子解は2因子を指定して行う。

(2) 12尺度の主因子法による、回転前の2因子の因子パターン

 以下の結果が、主因子法による最初の因子パターンであり、回転前の因子パターンと呼ばれる。この 解は、主因子解とバリマックス回転の項で述べたように、必ずしも心理学的には解釈しやすい結果には なっていない。そこで、それらが心理学的に解釈しやすいものにするために、サーストンの単純構造の 原理にかなうように因子軸を(バリマックス)回転するのが、つぎの項である。

                                                Factor Pattern

                                                                      Factor1         Factor2

                  yg1       depression                                0.75564         0.23388
                  yg2       cyclic tendency                           0.69186         0.36614
                  yg3       infereiority complex                      0.79712        -0.12053
                  yg4       neurosis                                  0.86149         0.12262
                  yg5       objectivity                               0.71311         0.29762
                  yg6       cooperativeness                           0.48640         0.40548
                  yg7       aggressiveness                            0.08732         0.49735
                  yg8       general activity                         -0.60901         0.40596
                  yg9       rhathymia                                -0.19828         0.44268
                  yg10      thinking extroversion                    -0.56407        -0.19020
                  yg11      ascendance                               -0.69753         0.49372
                  yg12      social extroversion                      -0.64022         0.50043

(3) 12尺度のバリマックス回転後の2因子の因子パターン・因子寄与・共通性

 以下の結果が、バリマックス回転後の12尺度の因子パターンと、最終的な因子寄与及び共通性の推定 値である。ここで、主因子解は直交因子を仮定しているので、得られた因子パターンの各要素である因子 負荷量は、各因子ともとの尺度や項目間の相関係数に等しいことを用いて、われわれは各因子がどの尺度 群と相関が高いかを見ることにより、各因子の解釈と命名を行うことができる。

                                            Rotated Factor Pattern

                                                                      Factor1         Factor2

                  yg1       depression                                0.75952        -0.22096
                  yg2       cyclic tendency                           0.77913        -0.07544
                  yg3       infereiority complex                      0.59895        -0.53962
                  yg4       neurosis                                  0.78659        -0.37213
                  yg5       objectivity                               0.75912        -0.14434
                  yg6       cooperativeness                           0.62930         0.07055
                  yg7       aggressiveness                            0.34680         0.36703
                  yg8       general activity                         -0.28473         0.67426
                  yg9       rhathymia                                 0.07831         0.47869
                  yg10      thinking extroversion                    -0.57557         0.15191
                  yg11      ascendance                               -0.31029         0.79626
                  yg12      social extroversion                      -0.25876         0.77030


                                        Variance Explained by Each Factor

                                              Factor1         Factor2

                                            3.8356367       2.5789494

                                  Final Communality Estimates: Total = 6.414586

                  yg1             yg2             yg3             yg4             yg5             yg6
           0.62569216      0.61272954      0.64992424      0.75720230      0.59709358      0.40100099

                  yg7             yg8             yg9            yg10            yg11            yg12
           0.25498481      0.53570171      0.23527944      0.35435325      0.73031220      0.66031192