3.4.2節 筆跡・性役割データへの適用例

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 この節は、つぎの7項から成り立っています:

1.筆跡・性役割データの永久 SAS ファイル化
2. 男性役割29項目の主因子法・因子数推定プログラム
3. 男性役割29項目の主因子法プログラム
4. 男性役割5因子の回転後の因子パターンとその命名
5. 男性役割5因子の性差の分析のためのプログラム
6. 男性役割5因子の性差の分析のためのプログラムの出力結果の見方
7. 第2因子の性差のノンパラメトリック検定と出力結果の見方

 この節には、つぎの5つの SAS プログラムのダウンロードコーナーを用意して あります:

1. 永久 SAS ファイル作成プログラムの例
2. 因子得点の計算及びその平均値の差の t-検定プログラムの例
3. ノンパラメトリック検定プログラムの例

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  1) 筆跡・性役割データの永久SASファイル化

  つぎのデータは、筆跡と性役割との関 連を検討した今泉 (1991) のデータの一部である。

 102 55665546456646655664544565664 45665546466666555666543565453 -68 0.6
  1 3342245334434323252233263243
  2 4232324334223222352353245553
  3 4422337226322342252252255354
  4 4432211232322365425444275335
  5 4342223334323223372223373264
 202 67716555655726675471246676757 35575637337675366766653565545 -58 0.8
  1 4435556335565665355535265635
  2 4626777555566656555633553626
  3 6477767726766677676626243626
  4 5557765365555676456773267775
  5 5455557445665766656654574666

    ........................
    ........................

5301 55535263666635653655253153566 56566535566665655553262156355 30 1.0
  1 4353346534334454464335253354
  2 4343344553233243454435353263
  3 6763366554444454672416262366
  4 5352235553233322325335555334
  5 4243445554545444363326632324
5402 77647556445747677774445456664 56577747447777477774553666464 -33 0.4
  1 5454356556554654454555534535
  2 2332253325534534433233543225
  3 6273371677777753665417262326
  4 6556655346633554435553575665
  5 5464242445534435463344353365
   

--- 今泉 (1991) による筆跡と性役割に関する54名のデータ(一部)---

  各被験者のデータは、合計6行から成る。1行目は被験者番号、性別、男性 役割29項目の7点尺度による得点、女性役割29項目7点尺度による得点、性度 検査の得点、5名の評定者が筆跡を見て筆跡を書いた被験者の性別を正しく当てた 率が、2行目から6行目まではそれぞれ5名の評定者の筆跡評定のための28項目 から成る7点尺度による得点から成る。

  上のデータを永久 SAS ファイル化するとつぎのようになる:

*-------------------------------------------------- October 23, 1998 -*
|  sas program--perm_yi.sas--                                         |
|      A sas program for making the sas permanent file for Imaizumi   |
|  data.  This data was gathered by Yumi Imaizumi (1991).             |
|                                                                     |
|  file name: $HOME/sasprog/multivar/perm_yi.sas                      |
|                                                                     |
*---------------------------------------------------------------------*;
filename yumidata '$HOME/educdata/thesis/p88014yi';
libname permfile '$HOME/sasset/multivar';
options pagesize=60;
data permfile.yumi;
  infile yumidata;
  input noss 2. +1 gender 1. +1 (rolm1-rolm29) (1.) +1
        (rolf1-rolf29) (1.) mfi 4. +1 ratio 3.1
       /+4 (hola1-hola28) (1.)
       /+4 (holb1-holb28) (1.)
       /+4 (holc1-holc28) (1.)
       /+4 (hold1-hold28) (1.)
       /+4 (hole1-hole28) (1.);
  label noss='sample number'
        gender='gender of subjects'
        mfi='muscularity-feminity index'
        ratio='correct judge of gender';
run;
libname library '$HOME/sasset/format';
proc format library=library;
 value sexfmt 1='male' 2='female';
run;
proc print data=permfile.yumi n;
   title 'thesis data by p88014, Yumi Imaizumi';
run;
 

--- 今泉 (1991) データの永久SASファイル化---

プログラムのダウンロード・コーナー

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perm_yi.sas

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  上のプログラムでは、input 文で指定した変数のうち、男性役割項目 (rolm1- rolm29)、女性役割項目 (rolf1-rolf29)、5名の評定者の28項目による筆跡評定項 目 (hola1-hola28, ..., hole1-hole28) については、label 文で変数ラベルを定義 しなかった。しかし、ユーザにはできることならばこれらについてもきちんとそれぞれ の項目の定義を行っておくことを勧める。なぜならば、これをしておくと、後で出力 結果を検討するときにこれらの変数ラベルが印刷されるのでたいへん手間が省ける ことになるからである。ただし、変数ラベルは最大40バイトなので日本語でラベル を付ける時は、20文字までなので注意すること。

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  2) 男性役割29項目の主因子法・因子数推定プログラム   これについては、既に前節191頁でその具体例を示したのでここでは省略する。 前節でと同様なプログラムでまず男性役割29項目の因子数を推定したところ、4か ら6因子であることがわかった。

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  3) 男性役割29項目の主因子法プログラム

  これについても、既に前節204頁でその具体例を示したのでここでは省略する。 前節でと同様なプログラムで、男性役割29項目の因子数を4、5、6、と変えて 主因子法による結果にバリマックス回転を施し、それぞれの場合の因子の解釈を 試み、5因子の場合が適切であると判断した。

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  4) 男性役割5因子の回転後の因子パターンとその命名

  得られた5因子の因子パターンを示すと、つぎのようになる。もし、変数ラベル が定義してあるとすれば、右側にすべて各項目に対応する変数ラベルが印刷され、 因子の解釈の時に大変便利である。ここでは、既に述べたように永久SASファイル 作成時にこれを行わなかったので右側の欄には何も印刷されないが、ここでは見やすく するため事後的に必要部分のみに変数ラベルを入れた:

Rotation Method: Varimax

                           Rotated Factor Pattern

            FACTOR1   FACTOR2   FACTOR3

 ROLM13     0.62961   0.22470  -0.15592    かわいい
 ROLM4      0.61558   0.05482   0.04082    気持ちのこまやかな
 ROLM28     0.59487  -0.16381   0.24259    女性を認める
 ROLM10     0.58410  -0.18885   0.10247    質素な
 ROLM22     0.58287   0.40714  -0.02645
 ROLM21     0.57187   0.21862  -0.08267
 ROLM18     0.52935   0.09658  -0.03162
 ROLM11     0.51617   0.11115   0.03377
 ROLM8      0.49216   0.35900   0.08351
 ROLM6      0.44216   0.22144   0.13825
 ROLM29     0.43519   0.18569   0.22255
 ROLM12     0.18570   0.76424   0.20257    視野の広い
 ROLM17     0.28641   0.70130   0.17816    忍耐強い
 ROLM16     0.20627   0.68821   0.12898    頭がよい
 ROLM26     0.10677   0.64487   0.17115    学歴のある
 ROLM5     -0.04677   0.55698   0.12163
 ROLM15     0.10885   0.34379   0.29839
 ROLM27    -0.00244   0.48447   0.67201    指導力のある
 ROLM23     0.10625   0.22586   0.63433    女性をリード
 ROLM3     -0.01770   0.28829   0.62860    積極的
 ROLM25     0.28668   0.00002   0.60491    理想をもった
 ROLM19    -0.12127   0.30159   0.53382
 ROLM24     0.14619   0.18812   0.50061
 ROLM14     0.30800   0.27864   0.38014
 ROLM20     0.33488   0.10405  -0.42617
 ROLM1      0.25396   0.05781   0.24558
 ROLM2      0.05590   0.38116   0.30979
 ROLM7      0.15408   0.01229  -0.05895
 ROLM9     -0.19389  -0.05538   0.17280

            FACTOR4   FACTOR5

 ROLM13    -0.08249  -0.12799
 ROLM4      0.05214  -0.23866
 ROLM28     0.14218   0.11811
 ROLM10    -0.30618   0.41242
  

--- 男性役割についての回転後の因子パターン(次頁へ続く)---

  つぎに、上で得られた男性役割5因子の回転後の因子パターンから、前節 7) の ところで説明したようなやり方でこれらの因子を解釈し命名すると、つぎのように なる;第1因子については、「やさしさ因子」、第2因子は「知性因子」、第3因子 は「指導力因子」、第4因子は「外面的顕著性因子」、第5因子は「質実剛健さの 因子」。第4因子の解釈は少し無理があるかもしれない。

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  5) 男性役割5因子の性差の分析のためのプログラム

  つぎに、上で得られた男性役割5因子のそれぞれに性差がないかどうか検討して みよう。それには、男性役割5因子のそれぞれについて因子得点を求め、男子と女子で 各因子の因子得点の平均値の差の検定を行えばよい。

  もっとも、得られた因子得点を単に男女に分割し、通常の平均値の差の検定をする ことにはサンプリングの理論からは、若干問題がなきにしもあらずである。なぜなら、 通常この種の統計的検定では、標本は母集団から無作為に抽出されねばならないのに、 ここで得られているような因子得点の平均値の差を検定するためのデータの場合、必 ずしも最初から性別の要因を考慮してサンプリングしていないからである。

  このような問題点があるものの、ここでは一応このデータが男女に関して無作為に サンプリングされていると仮定して話を進めることにしよう。

  ただし、簡単に平均値の差を検定するといっても、この検定は実はたいへん厄介な 問題を内包しているのである。というのは、両群の母分散がわかっている場合は問題 がないが、両群の母分散がわかっておらずかつ母分散の等質性も成り立たない場合は、 ベーレンス・フィッシャー問題 (Behrens-Fisher problem) と呼ばれ、統計量の正 確な分布は現在でもわかっていないのである。

  そこで、ユーザに注意を促すために、男性役割5因子の性差の分析のためのプロ グラムを提示する前に、独立な2標本の場合の平均値の差の検定について簡単に まとめておく。ここで、両群の母分散はそれぞれ $\sigma_x^2$ 、$\sigma_y^2$、標 本分散はそれぞれ $s_x^2$、$s_y^2$、(標本)不偏分散はそれぞれ $u_x^2$、 $u_y^2$、サンプル数はそれぞれ $N_x$、$N_y$ であるとする。 また、$w_x=u_x^2/N_x$、$w_y=u_y^2/N_y$ とする。さらに、次の幾つかの式では 標本分散や不偏分散の代わりに、それらの大文字を使って標本変量分散や標本変量 不偏分散を表すことにする。

  イ) 母集団の分布は未知、サンプル数大、かつ両母分散 既知の時

   z=\frac{\bar{X}-\bar{Y}}
          {\sqrt{ \sigma_x^2/N_x + \sigma_y^2/N_y } },         (3.141)
	   
	   
は、近似的に平均0分散1の正規分布に従う。現実的には、両母分散が既知という ことは稀であるので、この検定は実用的でない。

  ロ)母集団の分布は既知で正規分布に従い、かつ両母分散未知の時

  1. $\sigma_x^2=\sigma_y^2$ と見做せる場合
       t=\frac{\bar{X}-\bar{Y}}
              { \sqrt{ \left( 1/N_x + 1/N_y \right)\,U^2 } },\qquad
       U=\frac{ (N_x-1)\,U_x^2+(N_y-1)\,U_y^2 }
              { N_x+N_y-2 },           (3.142)
    	  
    は、自由度
      \nu=N_x+N_y-2,          (3.143)
      
    なる $t$-分布に従う。(3.142) 式の t は $S_x^2$、$S_y^2$ を用いて書き直すと つぎのようにも書ける:
       t=\frac{ \bar{X}-\bar{Y} }{ \sqrt{N_x S_x^2 + N_y S_y^2} }\,
         \sqrt{ \frac{ N_x N_y (N_x + N_y -2) }{ N_x + N_y } }.          (3.144)
         

  2. $\sigma_x^2=\sigma_y^2$ と見做せない場合

      この場合、つぎの $t'$ を考える。この $t'$ は一般には正確な t-分布には 従わない。そこで、つぎのような幾つかの t-分布への近似法が提案され ている:

               t'=\frac{ \bar{X}-\bar{Y} }{ \sqrt{W_x + W_y} }.        (3.145)
    
    

    1. Cochran \& Cox (1950) の方法

        Cochran \& Cox (1950) の方法では、まずつぎの $t'$ を計算する。ここ で、$N_x$ と $N_y$ の小さい方を $N_s$、大きい方を $N_l$ と書くことに する:

      1. 自由度 $N_l -1$ で、通常の t-検定

          (3.145) 式の $t'$ が、自由度 $N_l -1$ の通常の t-検定における 棄却点を越えていなければ、有意差なしとする。

      2. 自由度 $N_s -1$ で、通常の t-検定

          (3.145) 式の $t'$ が、自由度 $N_s -1$ の通常の t-検定における 棄却点を越えていれば、有意差ありとする。

      3. いずれでもない時
                           t^*=\frac{ W_x t_x + W_y t_y }{w_x + w_y},      (3.146)
        		   
        を計算し、この $t^*$ が (3.145) 式の $t'$ より小さければ、有 意差ありとする。

    2. Satterthwaite (1946) の方法

        (3.145) 式の $t'$ の自由度を

                     \nu=\frac{ {(W_x + W_y)}^2 }
                              { W_x^2/(N_x-1) + W_y^2/(N_y-1) },        (3.147)
      
      
      として、t-検定を行う。

    3. Welch (1947) の方法

      (3.145) 式の $t'$ の自由度を

                     \nu=\frac{ {(W_x + W_y)}^2 }
                              { W_x^2/N_x + W_y^2/N_y } - 2,         (3.148)
      
      
      として、t-検定を行う。

  これらの t-検定のうち、SAS では Cochran \& Cox の方法のうち、(3.146) 式 を用いる場合と、Satterthwaite の方法の2つが利用できる。

  ここで、男性役割5因子の性差の分析プログラムに戻ろう。つぎのプログラムは これを示している。まず、5因子指定の主因子法による因子分析の解をバリマックス 回転し、score プロシジャにより因子得点を計算させる。つぎにこの因子得点を呼び 込み、ttest プロシジャを用いて各因子ごと因子得点の男女差の有無の検定を行う。

  最後に、母集団の分散が未知の場合の t-検定の前提である分布の正規性の検定を 行うため、まず score プロシジャで一時ファイル scores に保存された5因子の 因子得点を被験者の性別で並べ変えておく。SAS では一般に何らかのカテゴリー ごとに分析を指示する by 文が使えるが、これを使う場合あらかじめ被験者をその カテゴリーの昇順又は降順に並べ変えておかねばならないからである。

  これが終了したら、chart プロシジャで男女ごとに各因子得点のヒストグラムを 描かせ、最後に univariate プロシジャで男女ごとに各因子得点の分布の正規性 の検定を行わせる。これが、つぎのプログラムの概要である:

*-------------------------------------------------- October 23, 1998 -*
|  sas program--fact_dif.sas--                                        |
|       A sas program for executing factor analysis and testing the   |
|  difference in averages of factor scores between two groups.        |
|                                                                     |
|  file name: $HOME/sasprog/multivar/fact_dif.sas                     |
|                                                                     |
*---------------------------------------------------------------------*;
libname permfile '$HOME/sasset/multivar';
options pagesize=60;
  title 'principal FA for Imaizumi data/ 5-factor solution';
proc factor data=permfile.yumi
             nocorr priors=s n=5 r=v re score outstat=factout;
  var rolm1-rolm29;
run;
proc score data=permfile.yumi score=factout out=scores;
run;
  title 'gender differences in each of the five factors';
proc ttest data=scores;
  class gender;
  var factor1-factor5;
run;
proc sort data=scores;
  by gender;
run;
options pagesize=40;
  title 'histogram of each of the five factors by gender';
proc chart data=scores;
  by gender;
  vbar factor1-factor5;
run;
options pagesize=60;
  title 'normality test for each factor by gender';
proc univariate data=scores normal;
  by gender;
  var factor1-factor5;
run;
 

--- 男性役割5因子についての性差の分析のためのプログラム ---

  上のプログラムについては、既に説明したので省略する。

プログラムのダウンロード・コーナー

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fact_dif.sas

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  6) 男性役割5因子の性差の分析のためのプログラムの出力結果の見方

  上のプログラムを実行すると、次のような結果が出力される:

  • 男性役割29項目の5因子指定による因子得点の計算

      最初の factor プロシジャと つぎの score プロシジャにより、因子得点の計算 を行う。まず、 男性役割29項目の5因子指定による主因子法・バリマックス回転による回転後 の因子パターンが再度出力される。ただし、この factor プロシジャでは、つぎの 解析のために因子得点計算のための係数を factout なる一時ファイルに保存させる ことが主目的なので、ここでの結果はすべて読み飛ばせばよい。つぎの score プロシジャにより、因子得点が scores なる一時ファイルに保存されるが、この プログラムによる出力結果は、何もない。

  • 各因子ごとの因子得点の平均値の差の検定結果

      つぎに、各因子ごとの因子得点の平均値の差の検定結果が出力される。ここでは 紙面の都合上、第1因子についてのみ表示しその説明を行う:

                                  TTEST PROCEDURE
    Variable: FACTOR1
    
    GENDER       N                Mean           Std Dev         Std Error
    ----------------------------------------------------------------------
         1      14         -0.43951104        1.15235295        0.30797928
         2      40          0.15382886        0.84347227        0.13336468
    
    Variances        T       DF    Prob>|T|
    ---------------------------------------
    Unequal    -1.7679     18.1      0.0939
    Equal      -2.0538     52.0      0.0450
    
    For H0: Variances are equal, F' = 1.87  DF = (13,39)  Prob>F' = 0.1327
     

    --- 男性役割5因子についての性差の分析の出力結果の見方 ---

      上の結果から明らかなように、まず男女ごとのサンプル数、因子得点の平均、標準 偏差、標準誤差が出力される。つぎに、両群の母分散が等しくない場合 (unequal) と等しい場合 (equal) の平均値の差の検定結果が、出力されている。前者は、SAS の場合、既に説明したようにオプションとしての Cochran \& Cox の近似を指定 しない限り、Satterthwaite の近似検定結果である。一方、後者は通常 の (3.142)式による t-検定結果である。

      このうちのどちらを見るべきかは、つぎの母分散の差の検定結果による。そ こで、これを先に見ると、 $F'=1.87$ で、$Prob>F'=0.1327$ なので、(危険 率5%で)男女の両群の母分散の等質性の帰無仮説は、棄却できない、すなわ ち母分散の等質性は成り立っていると、結論できる。

      したがって、直前の母平均の検定の統計量は、Equal の方、すなわち通常の t-検定 (3.142) 式で行なわねばならない。上の結果からは、t-値は -2.0538 で $Prob>\mid T \mid = 0.0450$ と、p-値が 0.05 以下であるので、第1因子 の因子得点の性差は統計的に有意である、と言える。

      同様にして他の4因子についても見てみると、第4因子の因子得点にも男女差 があることがわかった。既に見たように、第1因子は、「やさしさの因子」であり、 第4因子は、外面的顕著性因子」である。

      それでは、これら性差の認められた第2因子と第4因子についての男女による 差は具体的にはどうなっているのであろうか。この点を出力結果から読み取る には、各因子の因子得点の正負の方向が明らかにならないといけない。そのために は

      (1)当該因子と関係の深い項目と当該因子との相関関係の正負、

      (2)当該因子と関係の深いもとの項目の正負

    の2点を見る必要がある。

      前者については直交解の場合、因子負荷量が各因子ともとの項目との相関 係数になるので、当該因子の因子負荷量の絶対値が最大の項目を見てやれば、 相関関係がわかる。今泉 (1991) のデータの場合、第1因子のそれが最大の 項目は、項目13の「かわいい」であり、それと第1因子との相関係数 は 0.62961 と正の関係にあることがわかる。

      後者については、もとの項目の得点の正負の方向が何であったかをチェック する必要がある。今泉データの場合、各項目は7段階評定尺度から成り、各 項目は得点が高い程男性役割として望ましいように得点化されている。した がって、項目の正方向はすべて男性役割として望ましいことになる。

      これらの2点から、各因子の因子得点の正方向を見てみると、まず第1因子 については、「かわいい」方向が正方向である。言い換えれば、「やさしい」 方向が第1因子の正方向であることがわかる。

      同様に、第4因子については「背が高い」が当該因子の因子負荷量の絶対 値が最大であり、相関係数 は 0.75048 であるので、やはり、「外面的顕著」 である方向が第4因子の正方向であることがわかる。

      これらの結果をもとに、男女差が有意であったこれら2因子の因子得点 の平均値を t-検定結果の項で見てみよう。まず、第1因子の男子の平均 は、-o.43951104、女子の平均は 0.15382886 であるので、男子に比べて 女子の方が相対的に、やさしいという役割を男性として望ましいと見做し ているといえる。

      同様に、第4因子については因子得点の平均値が男子で -0.47507725、 女子で 0.16627704 なので、男子に比べて女子の方が相対的に、外面的 顕著さを男性として望ましい役割と見做しているといえる。

  • 各因子の因子得点の男女別ヒストグラム

      ここでは、紙面の都合上つぎの正規性の検定で正規性が棄却された女子の 第2因子の因子得点のヒストグラムのみ示す。

    --------------------------- gender of subjects=2 ------------------------
    
    度数
    
       |                                                  *****
       |                                                  *****
    15 +                                                  *****
       |                                                  *****
       |                                                  *****
       |                                                  *****
       |                                                  *****
    10 +                                       *****      *****
       |                                       *****      *****
       |                                       *****      *****
       |                                       *****      *****      *****
       |                                       *****      *****      *****
     5 +                                       *****      *****      *****
       |                            *****      *****      *****      *****
       |                            *****      *****      *****      *****
       |                            *****      *****      *****      *****
       |      *****      *****      *****      *****      *****      *****
       ----------------------------------------------------------------------
               -2.8       -2.0       -1.2       -0.4       0.4        1.2
    
                                     FACTOR2 中間点
    				  

    --- 女子の男性役割第2因子の因子得点のヒストグラム ---

  • 各因子の男女別因子得点の正規性の検定結果

      最後に、各因子の男女別因子得点の正規性の検定結果が出力される。これら合計 10個の分布のうち、正規性が棄却されたのはつぎに示す女子の第2因子の 分布のみであ った。この結果は、少なくとも性差のあった第1因子と第4因子については、 検定の前提は満たされていたことになる。したがって、上のこれら2因子につ いての結論は、間違っていないといえる。それでは、第2因子については、検定 に無理があるわけであるが、どうすればよいであろうか。そのような場合には、 いわゆるノンパラメトリック検定を用いて平均値の差の検定をするのがよいで あろう。

    --------------------- gender of subjects=2 ----------------------
    
                                Univariate Procedure
    
    Variable=FACTOR2
    
                                      Moments
    
                      N                40  Sum Wgts         40
                      Mean       0.080591  Sum        3.223634
                      Std Dev     0.83969  Variance   0.705079
                      Skewness    -1.2795  Kurtosis    2.52389
                      USS        27.75786  CSS        27.49807
                      CV         1041.917  Std Mean   0.132767
                      T:Mean=0   0.607012  Prob>|T|     0.5474
                      Num ^= 0         40  Num > 0          24
                      M(Sign)           4  Prob>|M|     0.2682
                      Sgn Rank         93  Prob>|S|     0.2155
                      W:Normal   0.914809  Prob
    		     

    --- 女子の男性役割第2因子の因子得点の分布の正規性の検定結果 ---

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      7) 第2因子の性差のノンパラメトリック検定

      最後に、女子の第2因子得点の正規性が成り立っていなかったので、第2因子 についてのみ性差のノンパラメトリック検定を行ってみよう。そのためには、p.127 のプログラムの最後につぎの5行を加えるとよい:

    *-------------------------------------------------- October 26, 1998 -*
    |  sas program--npar_ex1.sas--                                        |
    |       example 1 of sas programs for executing nonparametric tests.  |
    |                                                                     |
    |  file name: $HOME/sasprog/multivar/npar_ex1.sas                     |
    |                                                                     |
    *---------------------------------------------------------------------*;
      title 'nonparametric tests for factor2';
    proc npar1way data=scores wilcoxon median vw savage;
      class gender;
      var factor2;
    run;
     

    --- 第2因子の因子得点の性差のノンパラメトリック検定のプログラム ---

    プログラムのダウンロード・コーナー

    Eric's abar10 icon

    npar_ex1.sas

    Eric's back icon

     上のプログラムを実行すると、つぎのような結果が得られる。紙面の都合上、 2つの部分に分けて表示する:

                          nonparametric tests for factor2 
    
                          N P A R 1 W A Y  P R O C E D U R E
    
                 Wilcoxon Scores (Rank Sums) for Variable FACTOR2
                          Classified by Variable GENDER
    
    
                         Sum of      Expected       Std Dev          Mean
        GENDER    N      Scores      Under H0      Under H0         Score
    
        1        14       344.0         385.0    50.6622805    24.5714286
        2        40      1141.0        1100.0    50.6622805    28.5250000
    
               Wilcoxon 2-Sample Test (Normal Approximation)
               (with Continuity Correction of .5)
    
               S=  344.000     Z= -.799411     Prob > |Z| =   0.4241
    
               T-Test approx. Significance =     0.4276
    
               Kruskal-Wallis Test (Chi-Square Approximation)
               CHISQ= 0.65494     DF=  1     Prob > CHISQ=     0.4184
    
    
                          nonparametric tests for factor2
    
                          N P A R 1 W A Y  P R O C E D U R E
    
                   Median Scores (Number of Points above Median)
                               for Variable FACTOR2
                          Classified by Variable GENDER
    
    
                         Sum of      Expected       Std Dev          Mean
        GENDER    N      Scores      Under H0      Under H0         Score
    
        1        14         5.0           7.0    1.62527211   0.357142857
        2        40        22.0          20.0    1.62527211   0.550000000
    
    
                   Median 2-Sample Test (Normal Approximation)
               S=  5.00000     Z= -1.23056     Prob > |Z| =   0.2185
    
                   Median 1-Way Analysis (Chi-Square Approximation)
               CHISQ=  1.5143     DF=  1     Prob > CHISQ=     0.2185
    	    

    --- 第2因子の因子得点の性差のノンパラメトリック検定結果 ---

                          nonparametric tests for factor2  
    
                          N P A R 1 W A Y  P R O C E D U R E
    
               Van der Waerden Scores (Normal) for Variable FACTOR2
                          Classified by Variable GENDER
    
    
                          Sum of      Expected       Std Dev          Mean
        GENDER    N       Scores      Under H0      Under H0         Score
    
        1        14   -2.08080237           0.0    3.04469347   -.148628741
        2        40    2.08080237           0.0    3.04469347   0.052020059
    
               Van der Waerden 2-Sample Test (Normal Approximation)
               S= -2.08080     Z= -.683419     Prob > |Z| =   0.4943
    
               Van der Waerden 1-Way (Chi-Square Approximation)
               CHISQ= 0.46706     DF=  1     Prob > CHISQ=     0.4943
    
    
                          nonparametric tests for factor2
    
                          N P A R 1 W A Y  P R O C E D U R E
    
                 Savage Scores (Exponential) for Variable FACTOR2
                          Classified by Variable GENDER
    
    
                           Sum of      Expected       Std Dev          Mean
        GENDER    N        Scores      Under H0      Under H0         Score
    
        1        14   0.705461623           0.0    3.10978702   0.050390116
        2        40   -.705461623           0.0    3.10978702   -.017636541
    
               Savage 2-Sample Test (Normal Approximation)
               S= 0.705462     Z= 0.226852     Prob > |Z| =   0.8205
    
               Savage 1-Way (Chi-Square Approximation)
               CHISQ= 0.05146     DF=  1     Prob > CHISQ=     0.8205
    	    

    --- 第2因子の因子得点の性差のノンパラメトリック検定結果(続き)---

      これらの検定結果を見ると、p-値は方法の違いにより少しずつ異なっていること がわかる。一般に、Wilcoxon の(順位和)検定は、他のノンパラメトリック検定 の中でもとりわけ検出力は高いと言われている。また、もし正規性が仮定されると、 VW (Van der Waerden)検定は Wilcoxon の検定よりさらに検定効率が良いと言われ る。一方、Savage 検定は、サンプルサイズが小さい時は UMP 検定(一様最強力 検定)、漸近的には MP 検定(最強力検定)であることがわかっている (Savage, 1956)。最後に、median 検定は、サンプルサイズが大の時、検定効率が悪いと 言われる。

      一般的に言って、検定において第1種の過誤と第2種の過誤(したがって検出力) のどちらを重視するべきかは、差があることをいうことに重心があるのか、差がない ことに重心があるのかにもよる。もし、差があることに重心が在るならば、第2種の 過誤よりも第1種の過誤を重視すべきであろう。すなわち、この場合には、危険率を できるだけ下げるとよい。

      一般に、第1種の過誤と第2種の過誤は、ほかの条件を一定にすれば、一方を 小さくすると他方は大きくなるという関係にある。従って、第1種の過誤をできる だけ小さくするには、第2種の過誤は多少犠牲にする、すなわち第2種の過誤は 多少大きめを容認することになる。言い換えれば、この場合検出力は低くてもよい とすることにあたる。

      うえの4つの検定方法の検出力についての特徴を考慮すると、同一データに 対する上の結果の p-値、すなわち危険率は、median 検定が最も小さくなって いるが、検定方法の特色をほぼ反映しているとみれる。

      従って、もし差があることをいうことに重心があるのであれば、4つのうち median 検定の結果を選ぶのがよかろう。逆に、もし差がないことに重心がある のであれば、検出力の高い Wilcoxon 検定か Savage 検定を選択すると良いだ ろう。

      しかし、どのみちこの結果からは、第2因子については、ノンパラメトリック 検定を行っても差がないことにかわりはない。 Eric's back icon